true tears

数日かけてアニメ『true tears』を再視聴した。
そうすることになった経緯は、恐らくP.A.WORKSの人気キャラ投票で比呂美が1位だったのを見て何か無性に観たくなった…というような感じだったはず。

これ放送当時からもう三年も経ってるんだなー。当時は某掲示板で「比呂美ー!」とか言って荒ぶってた黒歴史が存在するのであまりそこら辺を自分で掘り返したくはないんだけど(笑)、まあ要するにこれ大好きな作品なんですよ。真っ当な恋愛ものあんまり得意じゃないおれにしては珍しくハマった。

おれは恋愛もので泣いたりすることはあまりないけど、感動はするし心揺さぶられるし「おーすげー」とか普通に言います。「泣く」という感情の発露はあまり恋愛関係の話とは結びつかない感じ。端的に言えば、血縁関係のない異性との出会いとか別れとか泣くほどのもんかよ、ってこと。そりゃ長い人生なんだからそんなもんの繰り返しだろーという達観した気持ちなんだろうと考えている。恋心を抱いた相手との繋がりはどのくらいなのかな…とふと考えた時、自分の中で萎えてしまう何か。家族や家族同然のペットと死別する時のほうがよっぽど辛い。人間と動物のふれあいとかああいう徐々に意思疎通(している、と人間視点で思われる)話とかおれはすぐ泣くので別の意味であまり見たくない。ミニイカ娘でめっちゃ泣いたのは去年だっけか。すげー昔のことのように感じる。ていうか来月から2期始まるじゃん。。。

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――本題。
このアニメ、主人公である眞一郎をめぐっての関係が結構わかりやすくて(全員の矢印が眞一郎に向いている状態)、俗にいう修羅場的なものも発生するのだけど、それがすごく自然な流れで発生してるというか、眞一郎はどうしようもないお節介野郎(三代吉の告白に立ち会った挙句、後押しまでし始めたのは正直引いた)なのは間違いないんだけど、三人の主要女性キャラと眞一郎、三代吉含めて行動や感情がやたらとリアルで納得させられるものだったのが自分にとってすごく視聴しやすかった一因。まあ嫉妬という感情はこの手の話には必要不可欠なエッセンスなんでしゃあなしとして。

ストーリーは非常に純粋な恋愛物語、といって間違いないだろう。しかし乃絵のキャラクタがいまいち掴みづらいことがあって、このアニメは変化球みたいな見方をされることもあるようで。しかし乃絵は過去に囚われていたせいで、ある意味誰よりも子供っぽい存在なんだと思う。

そう、だからこそ慎一郎が乃絵を選ぶルートはなかったのだ。乃絵は恋人というより子供、これから飛び立っていこうとする未成熟の存在として描かれたキャラクタであったためにヒロインの立ち位置にいることはできなかった。対する比呂美は大人より大人の存在だった。それが故に気持ちを表に出さないこともあり、序盤では乃絵に隠れてしまったような印象。乃絵と喧嘩したあたりから気持ちを表に出すようになり、後半以降のあの盛り上がりに繋がる。

おれは前述の通り放送当時から比呂美一択(11話序盤以降ときたま比呂美に眼鏡を掛けさせたのはスタッフGJと言わざるを得ない)だったんだが、それはこの作中で最も心情描写とその起伏が多いから、というのが最も大きな要因なのかもしれないな、と久しぶりに見てふと思ったりした。
ていうか久し振りに観るとキャラに対する見方が色々と変わってくる。3年前は、漠然としたものはモヤモヤと残っていたんだがそれを形にすることが出来なかったというか、時間補正とか時期(季節)の合致とか色んな要素が重なって「良いアニメだった」 とだけ思っていたのかもしれない。

しかし昔も今も三代吉はかなりいい男だと思う。内面的な意味で。眞一郎にも愛子にも当たる事なく、自分の中で全てを消化しようとするのは精神的負担がデカいと思うんだが、それを卒なくやってしまうあたりコイツ只者じゃないなー と。それに反して乃絵の兄、石動純はどこまでも外面的に動いて自己の感情を正当化しようとしたわけだが、それが結果としてほとんど全員の動きを封じたわけで、最終的に乃絵に飛べる勇気を与えた眞一郎に対して「許さない」と言ったまま終わりを迎えてしまった。しかしこの「許さない」の矛先は多くの視聴者が思っている通り純自身。もちろん眞一郎を許さない気持ちもあるだろうけど。

あとそれぞれのキャラに過不足なくスポットライトが当てられるのもよく出来た構成だなーと思う。慎一郎の母親は前半で比呂美に辛く当たっていたので今でもちょっと好きになれないキャラなんだけど。まあ血の繋がらない父親と息子という関係だったらそこまで摩擦は起きないかもしれないが、母親と娘という関係だったら軋轢が半端ないんだろうな。男より女のほうが他人との関係性を重視するぶん。

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あと作品の骨格に組み込まれた「雪」 。北国生まれのおれに取って雪というものには特別思い入れがあったり。現実的には自転車が使えないという点で憎しみの対象でしかないんだが、雪が降る夜はこう、現実が現実味をなくすというか、得体のしれない雰囲気があって幻想的というか。
アニメーションにおいて雪が用いられるのはそういった幻想的だったり儚い雰囲気を演出するための小道具と相場は決まっているんだが、稀に雪という単なる小道具がストーリーを喰ってしまうことがある。『Kanon』とか『WHITE ALBUM』はまさにそういった類の作品だろう。作品が良いとか悪いとかそういうことではなくてね。

ではこの『true tears』ではどうかというと、これがまた上手いこと取り入れられてて、さらには季節の変化と感情の変化をリンクさせることで余分な心情描写を省くという、一歩間違えばバッシングものの手法を見事成功させている。要するに雪はおろか季節という小道具(この場合もう大道具かもしれない)を操っている状態。これは誰の功績なんだろうな。監督のジュンジさんかシリーズ構成のマリーか。

そうそう、10話の最後の演出を筆頭に、このアニメの演出は総じてアニメ史に残るレベルなのでこっちの世界に片足でも突っ込んだ人には是非とも観てもらいたい。 この時からおれがアニメーションに求める演出レベルが高まってしまったのは否めないんだよな。
…と演出のこと語りだすとおそらく字数がとんでもないことになる気がするので重要なところだけを掻い摘んで。

この作品の演出で最も秀でてるのは「間を読ませる」 ことだろう。本来それは漫画的手法で、アニメーションになるとそれが陳腐化したり、テンポが悪いと言われる事が多いのだけど、このアニメに関しては間が効果的に作用してて、それが心情描写の少なさをカバーしている。『true tears』が男性的といわれるのはおそらくこの心情描写の少なさが故なんだろうけど、実際のところこのアニメには「表の心情描写」と「裏の心情描写」があって、視聴者側に想像の余地を与える間こそが裏の心情描写であると思う。確実に「これだ」とわかるものではなく、下手したら心情だとすら思われないから上述のように「心情描写少なくてキャラクタの行動が理解できない」となってしまうんだろうなーと。それは少し残念だったりする。視聴者側に判断が委ねられているだけであって、本当はそれなりに心情描写はあるんだよ、と言っておく。

ちなみにあの絵画のような止め絵演出はおそらく眞一郎が絵本を描いていることにも掛かってたのかなーと思ってるんだが真実は知る由もなし。でもあれが凄くきれいにはまっていたので今でも印象に残っている。

あと流石P.A.WORKS、終始素晴らしい作画だった。この作品が初の制作元請になったわけだが、グロス請けはだいぶ昔からやってるんで実力は申し分ない。それがこのアニメで如何なく発揮されている。
キャラクタ造形はもちろん、夏祭り・雪景色・桜といった物語を彩るものの描写も完璧。ここまで丁寧に仕上げられると無条件で惹き込まれるよな。今期の『花咲くいろは』もまさにそれ。

音楽はもちろん文句なし。特にOPと挿入歌担当のeufoniusの曲は相変わらず次元が違う。声質も曲調もアニメに合っててやっぱり音楽ってアニメーションと切り離せないよなーと再認識した。ドラマとかと違ってアニメだとほぼ常に音楽が流れてるんで否が応にも劇伴の出来によって作品の出来自体も左右されてしまう。当然リフレクティアは買いました。名曲。

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とまあ、2008年の初っ端に放送されていきなり視聴者たちの度肝抜いた『true tears』、今観直しても色褪せること無い作品だった。点数方式でいえば50点満点中45点くらいかな。
この頃にしては珍しく、どこまでも純粋で真面目な恋愛作品だった。萌え・エロ要素などの一切を省くことによって究極的に洗練された物語に仕上がっていたと思う。『とらドラ』なんかもこの系譜なのかもしれないが、あれは大河というキャラが2次元的というか、どちらかといえばリアリティ重視の存在ではなかったため、少し正統派の枠から外れるかと。

主要女性3人(最後には比呂美と乃絵の2人になる)がどこまでもリアリティをもって描かれていて、主人公の眞一郎もまた現実味のある問題を抱え悩んでいた。最終回で全てが救われたというよりは、皆が成長したというような。だから恋愛物語でもあり、各人の成長物語でもあったのだと思う。だからこそおれも見てて苦ではなかったのかもしれない。

取り敢えずまだ観てない人は一度観ることをお勧めします。ちなみに、アニメと原作ゲームでは登場人物も内容も全く違うので注意。おれは一瞬原作ゲームの方買いそうになった。