花咲くいろは

最終回で見事名作に変貌を遂げたアニメ。2クールあったのに振り返ってみるとあっという間に終わった気がする。
日曜はいろはとクロワーゼのダブルコンボで癒されて眠りにつくという習慣が出来上がってたんだけどなあ。両方終わってしまって寂しい。

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(2011/07/20)
伊藤かな恵、小見川千明 他

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とにかく最終回がすごい。これはもう誰が見ても納得の完璧なストーリー。これが最終回って言うんだぜ、「俺たちの戦いはこれからだ〜」で締める中途半端なアニメたちよ、と言いたくなるほどの「最終回のお手本」のような出来だった。

前半のぼんぼり祭りでは緒花の喜翠荘、ひいては自分の生き方に対する決意や孝ちゃんへの一世一代の告白など盛り上げどころを詰め込みまくっていた。みんちが敢えて「徹さんと結ばれますように」とかではなく「徹さんに追いつきますように」と書いたところが健気でツボった。ただあそこには「女の子になりたい」とか書かれた絵馬があってスタッフ遊んでんじゃないかよ、と思ったが見返してみると「震災復興が少しでも早く進みますように」みたいな絵馬もあってほっこりした。遊んでたわけではないのね。

後半は喜翠荘を畳んでそれぞれの道を歩んでいく話なんだが、これが散々盛り上がった前半よりもさらに盛り上がりグッとくる演出があちらこちらに張り巡らされてて正直失神レベルだった。特に喜翠荘の前での従業員解散の場面からは一秒たりとも目が離せない。
ここでも蓮さんは萌えキャラだった(笑)。巴さんと蓮さんが2人して泣いてるシーンを見るとやっぱ何だかんだでお似合いなのではなかろうか、と思ってしまう。

そして女将が誰もいなくなった喜翠荘の中を歩きまわるシーン。これがグッとくる。喜翠荘のモデルになった旅館はもう廃墟と化していて何だか寂しかったのだけど、ここでも前回あれだけ客がいて賑わっていた旅館の中がガラガラなのを見て寂しくなるのであった。こういう寂寥感の演出を最終回できっちりやってくれるのは評価できる。

だが何よりも素晴らしかったのは、一話で緒花は嫌々ながら雑巾掛けしてたのに最後は自ら雑巾掛けしてたところ。これはもう反則というか、まさか1話のあの場面が最終回のこの大事な場面に繋がるなんて思ってなかったから不意を突かれた感。やっぱりこのアニメは緒花の成長物語だったんだね。ともすれば「いろは」というタイトルには緒花が成長して「輝く」までの手順、という意味が込められていたのかもしれない。

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(2011/09/10)
単行本

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(2011/03/22)
P.A.WORKS

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唯一この作品に抱いた違和感は、マリー脚本のくせしてマリーっぽさがほとんど無いところなんだよな。てっきり前期の『あの花』でハジけられなかった腹いせにこっちでやりたい放題かと思ったんだけどな。女将死んだりとか徹をめぐって三角関係になったりとか、マリー劇場になる分岐点はいくらでもあったのに。敢えてそれをやらない、というマリーの意図について色々考えてみたんだが、恐らくこの『花咲くいろは』の中にマリーの理想的な空間が創り上げられているのではないか、という考えに至った。

このアニメには男は出てくるものの、基本脇役扱いである。その証拠に孝ちゃんなんて緒花と結ばれる超重要人物のくせに序盤と終盤以外ほとんど出てこない。そこに女性的楽園、あるいは女性が優位に立っているような雰囲気を感じる。ジェンダー論とかに結びつける気はないんだけど、やはり女性(の心情)主体で描かれていて、それはマリー自身が意識したかしないかにかかわらずここにはっきりと形成されている。女将なんかは特に「女性からみた強い女性像」という感じだしね。

その女将からも分かる通り、このアニメって「仕事をバリバリこなす女性目線で創り上げられた作品」って感触がするんだよな。それはもちろん脚本家として多忙なスケジュールをこなす岡田麿里自身の視点から創り上げられたもので、分業体制に近かった『あの花』に比べれば、こちらはマリーの意見がほぼ全面的に通ったのではないか。もともと違うコンセプトの作品だったのを「旅館で働く女子高生の話にする」って言って変更させたのはマリーらしいしね。

そして女性が描く作品というのは、そのほとんどがキャラクタの心情などの内面から外面(ストーリー・演出など)を構築していく傾向にあるんで、この作品も非常に叙情的というか、P.A.WORKSが手掛けた完璧な作画と相俟って全体的に「美しい」という印象を与えるものだった。個人的には今までで一番P.A.WORKSの持ち味が生かされた作品だと思う。去年のABさえなければ……ああそれはもういいや、過去の話だ。
しかし二クールで作画が一切崩れないってP.AWORKS凄すぎるな。今度は来年の冬頃放送の『Another』を担当するそうで。そっちも楽しみにしておく。

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(2011/09/28)
TVサントラ

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緒花は最初「うわーこいつあんまり好きになれないわー」とか思ってたのにいつの間にかいいキャラになっちゃって。ちなみになこちへの評価は最後まで揺るがなかった。なこちかわいいよなこち。
みんちはあの年頃だからか情緒不安定すぎる。ここにマリー成分を感じるわけですね。騒動の火種みたいになりそうなキャラクタ。

そんでよく「結菜って何のためにいたん?」って疑問の声があるけど、結菜はおそらく湯乃鷺という田舎町において、緒花と対比される「都会っ子ぽい田舎のキャラクタ」だったんだろう。緒花が都会から来た割にあまり都会っぽさを感じさせなかったのは「都会っ子なのに都会っ子ぽくない」緒花と「田舎っ子なのに田舎っ子ぽくない」結菜を視覚・心情的に対比させるため、としか考えようがないんだよな。ただ結菜の出番が少なかったのと、まともに対比したのが4人娘で買い物に出かける時しか無かったので「あいついらなくね?」みたいな話になってるということで。個人的にも結菜の存在をもう少し活かしてほしかったなあとは思う。

またこのアニメは聖地巡礼アニメとしてもいい働きをしたんじゃないだろうか。おれも喜翠荘に泊まりたくなった(存在しないけど)。湯乃鷺への客足も増えてるというし、こういうアニメで観光事業が活性化されるならそれは非常に良いことだと思う。あとは客の一人ひとりがモラルを意識した行動を取れるようになればいいんだけどねえ。

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(2011/10/05)
ドラマ、伊藤かな恵

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というわけで、演出・作画・音楽全てが終始高クオリティ(作画はたぶん今年最高の出来。これ観た後に他のアニメ観た時に妙な落胆がある)だった『花咲くいろは』。2期は恐らくないだろう。というかその方がいいと思えるくらいの綺麗な最終回だった。今年5本の指はキツイけど10本の指には確実に入るアニメ。