ましろ色シンフォニー

文句無しに素晴らしいアニメだった。今期トップクラス且つここ近年のエロゲ原作アニメの中では1番良い出来(ヨスガノソラは全ルートを描いたことに対する評価は高いが主人公がダメだった)。不快感を抱かせない主人公、誰か1人のルートに決めてそれを裏切らない潔さ、どのキャラクタでもメインヒロイン張れるほどの造形、余分な要素を取り除いた無駄のないストーリー構成、季節感と感情の機微を意識した繊細な演出。劇半と挿入歌、そして今期1番のOPと安心安定のmarbleのED。どれもが平均以上。

いやしかし予想を遥かに超えた素晴らしすぎる最終回で、観終わった直後はどう感想を書いていいものかとずっと悩んでいたが、これ論文でも批評でもないので別に纏める必要も長く書く必要もなくただ思ったことを書き散らせばいいだろう、という結論に達した。

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(2012/01/25)
水島大宙小野涼子

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どのキャラクタも魅力的に描かれてるのは商品販促に直結しててメディアミックスの形としては実に理想的。PSPのほうのソフトを買わせる為にあえて紗凪ルートでなくみう先輩ルートだったのかもしれない。いや、でもぱんにゃとの別れを一際盛り上げるため、そしてぱんにゃとの別れに1人では耐えられないであろうみう先輩を救うために新吾を据えたという考え方も出来るな。

ちなみに友人に聞いたところ「一番いいシナリオだしファン投票二位だし紗凪の悲劇も描けるからPSP版販促に丁度いいんじゃないのってことで原作準拠みう√を選んだんだろうなー」と言っていた。この話原作準拠だったのかよ。すげえな原作。

このアニメの何が良いって、まあ前述のとおりほぼ全部なんだけど、特にキャラクタを最大限に活かしたストーリー構成だろう。前半であれだけ愛理とくっつくフラグを立てていた新吾がみう先輩に移行したことに関して何の不自然さも抱かせないというのは正直凄いことだと思う。これは菅沼氏の功績だろうか。

あと何気にこのアニメ、秋から始まり、冬に別れと出会い、春に再出発、そして夏に(ぱんにゃとの)再会を描いている。あっという間に季節は一周してたんだが、それに伴ってキャラクタたちが緩やかに成長していく様子が可視化されていたのはこの手のアニメでは珍しい。

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最終回はやっぱりうりゅうううううを野生に返す話と学園統合の話。正直こんなに上手く作ってくるとは思わなかった。ぱんにゃとの別れが最終回の寂しさを増長してた。ていうか正直泣きそうになったわ。動物ネタはやめろとあれほど…
動物、主にペットが先に死んでしまう問題については電脳コイルのヤサコの母が一つの答えを出している。が、みう先輩ママの考えもまた一つの答えであり、それは否定されるべきではない。人間と犬や猫などのペットとの関係性はいくら語っても枯れることはなさそうだ。

愛理、アンジェ、桜乃、紗凪のもとに姿を見せた親ぱんにゃ(ままにゃ)がなぜ新吾とみう先輩の前には姿を表さなかったのか、ということが最初引っ掛かったんだけど、2人の仲をずっと見守っていたぱんにゃの親が見つかる=ぱんにゃとの別れ、に直結し、それは前々回でくっついたばかりの2人とは相入れないベクトルにあったということだろう。だからもし、他の4人が見つけたことを報告しなければ、この別れは訪れなかったかもしれない。

「どんな辛いことでも我慢して受け入れる」という紗凪の考えるみう先輩の強さは結局外面でしかなくて、実のところ先輩は「ぱんにゃと別れたくない」という我儘であり本心である弱さを内面に秘めていた。秘密だったり弱さだったりというのは飽和寸前テンプレ的キーワードではあるがそれを上手く駆使すればいくらでも話を膨らませられるんだなーと妙に感慨深い。つまり今までのエロゲ原作アニメもこんな風に丁寧に作っていればいくらでも名作になれる可能性はあったわけで、そう考えると死屍累々と半額売り場に積み重なる円盤達を見るにつけ涙を禁じ得ないな…

「猫は私たちより早く死んじゃう。どんなにたくさん可愛がっていても、最後は悲しい」というみう先輩の言葉に対して結子さんは「別れは辛くても、思い出はずっと心に残っていく」と人間視点で考えた場合の答えを提示している。電脳コイルにおけるヤサコママは「人間が先に死んだら残された動物だって悲しい」という動物視点の答えであった。似た問に対しての両者の答えは異なったアプローチではあるものの、両作品では動物との別れを乗り越えた人間が確実に「強く」なっている。抽象的・精神的かつ目に見えない変化ではあるが、確実に。

最後にぱんにゃを撫でたのが愛理だったのがこれまた憎いやり方で、最初愛理はぱんにゃを苦手としていたんだよな。みう先輩だけでなく他キャラクタの心情の変化をそれとなく描く、この細部まで行き届いた構成力。菅沼氏はどうも監督としてはイマイチ突き抜けない印象があったんだけどこの作品ではいい仕事したと思う。作画の乱れも殆ど無く、マングローブも良くやってた。

そういや挿入歌が意外なまでに叙情的な歌で驚いたんだけど一発で気に入ったので、該当曲が収録されてる美郷あきのアルバムを借りてきた。サントラなんかに収録されてたら買ったのになー。まあでもいずれにせよサントラ買うからいいけどなー。

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あと音楽方面も隙がない。OPは今期一番だし(FateのOPと悩んだがこっちの方が長く聴ける)、EDのmarbleはいつも以上のレベルの楽曲を提供してきた。挿入歌(最終回のみ)や劇伴も良かった。劇伴は確か虹音が担当してたんだっけか。バカテスの劇伴も弾けててよかったけどこういうしっとりした曲も作れるオールラウンダーだったとは。

とにかくこれはもっと評価されるべき。エロゲ原作でこんなに出来の良い作品見たの何年ぶりだろう。クラナドをのその範疇に含めなければ約四年か。長かった…
とりあえずエロゲ原作だろうが何であろうが、メインヒロインを一人に定めて他ヒロインは切るくらいのストーリーに対する決断力やキャラクタの心情を丁寧に描く力があれば良い物は生み出せるということが再確認できた。まあISやトラブルダークネスのような究極に振りきれたハーレムものだったり、アマガミ(アニメ)やヨスガノソラのような各ヒロインのルートを全て拾う、という作品も作り方を間違えなければ売れる。
だが個人的にはこういったコメディ要素をできる限り排した純粋な恋愛物を観たかったので(なんかtt以来な気がする)、年の瀬に良い物見れたなあと満足するのであった。