君と僕。2 『Colorless blue』

今までの話が嘘のようなほどの傑作回、まさしく神回と呼ぶに相応しい出来だったので知り合いの誰かがこの回の記事誰か上げてくるだろ…と思ってずっと待ってたのに誰も書かないのに業を煮やして結局自ら書くことにしました。


これぞおれ含め多くの視聴者が待ち望んでいた『君と僕』だ。2期中で断トツ、1期の話すら超える勢いであり今期他アニメと比べても余裕で最上位に位置する傑作回だった。流れるような構成とそれを阻害することのない繊細な演出、それぞれのキャラは自身の特性を生かした動きを見せている。


#6「Colorless blue」
脚本:國澤真理子 絵コンテ/演出:則座 誠

食堂のシンデレラと祐希との距離感、そしてシール

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1期では祐希と食堂のシンデレラこと花代との距離は付かず離れず、あくまで食堂で仕事をしている人と生徒という関係のまま終わっていた。それは年齢や立場の違いから考えても当然の結果であったしそこからの展開もないはずだった。


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シールの競い合いを切っ掛けに始まった交流はシールで幕を引くんだけどそれはもうちょい先の話。
ここでは花代が祐希の手をとってシールを貼ってあげた、という事実が重要になってくる。
祐希の中では「シールをもらう」ということよりも「花代に手を取られた」ということのほうが大きな意味をもっていて、それは後方から男子学生が通りかかった際に祐希が素早く手を引っ込めたことから察せられる。


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手を引っ込めた、ということはつまり「花代に手を取られている場面を見られるのが恥ずかしかった」という思いが祐希にあったと推測でき、そのことを察していない花代はこの段階ではまだ祐希の気持ちにはっきりと気付いてはいないと思われる。


祐希にとっての「別れ」とは

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花代と初めて出会った場所で、祐希は花代がここを辞めて美容師になることを告げられる。
働く美容院がどこにあるのかは明言されていないものの、ラストまで見てみると少なくともこの高校の近郊では無さそうだということがわかる。それは祐希と花代との接点がなくなってしまうということであり。


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必要以上に花代を食堂に留まらせようとする祐希。その説得が「美容院が乗り気ではなさそうだから」というものだったのだけど、花代が美容院で働くことを渋っていた理由はそうではなく「母親を一人にしてしまうこと」だったため、ここで花代が苛立っている。


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1期の時、祐希の過去編で千鶴との別れが描かれていたけれど、「別れ」という出来事自体には耐性がつくはずもなく、祐希は花代に自分の気持ちを打ち明けることをせずにこの話は一度有耶無耶になる。


バスケというおまけ要素

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今回は冒頭で7組の柳が祐希をバスケ部に勧誘していて、今回はそっちの話がメインになるのではないかと思っていたけどそうではなかった。あくまでも祐希と花代の関係を最後まで丁寧に描いていて、バスケは祐希がある目標を実現させるための手段、端的に言えばおまけ要素でしかなかった。


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この超絶プレイも全ては花代と別れる前にプレゼント(シールと交換する景品の皿)を贈ろうとするためだけに繰り出されたもの。
無駄な時間を浪費すること無く、一刻も早く花代に皿を渡そうとしているんだけども、ここで祐希が焦っている描写が傍目からは確認できないのが最後まで祐希らしかった。


悠太の祐希に対する気配り

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悠太は最初から最後まで祐希のことをよく見ていた。
ある日を境に祐希が食堂に行かなくなった理由まではわからなくとも、自分でパンを買って食べているのはシールを集めるためだということに気付いている。


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花代が学校を去り、脱力している祐希を気にかける悠太。
4話で示された祐希と裕太、双子の関係が生かされた部分でもあった。


「あんたなんか全部これからでしょうが」

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花代の心情描写は祐希に比べて少ないものの、彼女が祐希に話す言葉から読み取ることは出来る。
「あんたなんか全部これからでしょうが」はその中でも特に、祐希の背中を自分とは反対の方向に押す台詞だった。


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祐希は高校生であり、これからまだまだ沢山の出会いや別れを経験する。その中で祐希に合った人を見つければ良い、一度挫折した自分よりもお似合いの人が現れるよ、ということで「別れ」ではなく「出会い」の意味合いを強くした言葉になったんだろう。


花代の髪の毛

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元美容師である花代の髪の毛が、食堂に居るときはなぜ手入れをしていないボサボサの状態だったのか。
これは、髪の毛の手入れをすることで美容師だった頃の自分を思い出してしまい再び美容師になろうとする、あるいは食堂の仕事を辞めたくなる気持ちを抑えていたのではないか、と推測できる。


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また、千鶴には許可無く触れることを拒否した花代が、気づかないふりをしていたとは言え祐希に髪の毛を触られることを拒否しなかったことから、花代は一定以上祐希に気持ちを許していたし、祐希の気持ちに気づいていたということでもある。
しかし互いの立場や年齢差を考え、前述のような言葉を口にした。


語られない2人の心情

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前述したように、今回は祐希と花代、両者の心情ともにほとんど劇中では語られないため、両者の行動や台詞、演出などから読み取る必要がある。
そこで気になるのはやはりこの特殊空間。ここは一体何なのだろうか。


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注目すべきは祐希の服。高校の制服ではない、大人びた格好。背を向けている花代は黒いドレス。
この空間は恐らく、二人の立場や年齢の差といった概念が無くなっている場所なのでは、と考えられる。壁に描かれた青いラインは現実世界で二人がいる道であり、且つこの世界では二人が同じ場所に立てている、対等であるということを示している。


しかし同時に、現実世界では若干祐希の方が高かったはずの身長が、この空間では若干花代のほうが高くなっていたり(年齢差の暗示)、花代がラインの交差する付近に立っていてここから進む道が変わってしまうことを暗示するなど、現実離れした空間ではなく、理想と現実が綯交ぜになった空間だと言える。
以上のことからこれは祐希の内面描写と思われる。スーツを着て大人びた格好をして花代に近づこうとする祐希。しかし花代は祐希に背を向けたまま振り向いてはくれない。


花代はさらに光源にも背を向けて俯いている。これは学校をやめてこの場所を去っていくことに対しての後ろめたさのようなもの。そして祐希は光を受けてはいるものの、顔半分は影になっていて、平常心と花代に惹かれていく心とが半々になって揺れていることが暗示されている。


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こちらは祐希一人。これは店のショーウインドウか何か(恐らくイメージ上の花代が働く美容院)に映った自分の<大人になった>姿を見ている。これは祐希の願望に近いのではないだろうか。自分が大人だったら、花代と同じような年齢だったら。それを仄めかす言葉を祐希は一度も口にしてはいないが、「そうであったら」という願望は花代とのこれまでのやりとりから窺える。


黒猫と白猫

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君と僕。の劇中でほぼ毎回登場している猫。今回は黒猫が祐希、白猫が花代を表しているのかと思いきやそうでもないらしい。例外としては上の猫たち。これは千鶴が柳にタックルした時に挟まれたカット。この猫たちはもちろん千鶴と柳を表している。
しかしそれ以外の場面で挟まれる猫のカットに関しては、場面場面に応じて猫たちと登場人物を重ね合わさないといけない。


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これは花代がシールをあげようとして、祐希が手を引っ込めた場面のカット。積極的な黒猫が花代で、それに対し若干身を引いている白猫が祐希で間違い無いだろう。


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これは祐希が放課後(?)に食堂にいる花代の元を訪れた場面のカット。このとき祐希は花代に食堂に来た理由を尋ねられ、本心を答えることが出来ず「シールを貰いに来た」と答えてしまう。シールを何度も貰いに来る=執拗なスキンシップとなりここでは黒猫の方が祐希、白猫が花代になるように思えるが、このあと花代が祐希に突っかかってしまう、ということの暗示だと考えると黒猫=花代、白猫=祐希とも考えられる。


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そして花代が祐希の元を離れていく場面でのカット。互いの距離感を上手く掴むことが出来ず、必要以上に近づこうとした結果、両者の距離は前よりも離れてしまう。これは黒猫=祐希、白猫=花代に見えるが、「食堂」という場所を今回の話の中心と考えると、そこから逃げたのは祐希であるため、黒猫=花代、白猫=祐希という解釈もできる。


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これは放課後、花代が先生達への挨拶を済ませ食堂に戻ってきたところで祐希と鉢合わせる場面と、食堂で花代が祐希からシールと交換した景品の皿をもらった場面のカット。
上で逃げたはずの白猫がまた戻ってきて黒猫とスキンシップをとっている。黒猫=祐希、白猫=花代ともとれるし、黒猫=花代、白猫=花代ともとれる。「戻ってきた」という事実を軸に考えるならば、黒猫=花代、白猫=祐希のほうが妥当だろう。


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これは祐希と花代が別れる場面のカット。初めて白猫が自分から黒猫とスキンシップを取った(=心を開いた)。
ここで、この前の時点で花代が祐希が髪に触れることを拒まなかった(=心を許していた)という描写があるので、今回心を開いたのは祐希であると考えられる。つまり黒猫=花代、白猫=祐希。
こうして見てみると、全体的に黒猫=花代、白猫=祐希として見た方が理解しやすいようだ。


Colorless blue

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何ともまあ意味深なタイトル。直訳すると「色のない青」。
これは最初何のことやらさっぱりだったんだけど、「色のない青」を少しひねって「青がない」と考えれば(色のない青=青から色が失われた=青が無くなった)、ちょっとこじつけっぽくなるものの一応の解釈は可能になる。
「青」がつく言葉といえば何があるか。このアニメに最も合いそうな言葉として「青春」という言葉が挙げられる。では「青春」から「青」を取るとどうなるか。もちろん「春」が現れる。


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時期は1月29日、新年が明けて冬から春に移り変わろうとしている。花代への想いが「初恋」であったかどうかは確認できないが、高校生という多感な時期に恋をしたという事実はまさしく「青春」の範疇だ。そしてその恋が終わったと同時に青春もピリオドを迎え、祐希は自身の中の青臭さが抜けまた少し大人になった。そんな「青さ」が抜けた祐希のもとにはまたすぐに「春」が訪れる。悠太も「これから少しづつ色を咲かせ始めるあなたの道が、とても綺麗な色でありますように」と心中で言っていて、これは祐希と花代、両方に対して向けられている言葉だろう。「Colorless blue」とはつまり、別れを乗り越えてまた春(出会いの季節)が訪れる、という意味合いがあったのではないだろうか。




大雑把にまとめるとこんな感じになるかな。他にも、祐希が花代から手に貼って貰ったシールを三日月型にしてるの、怠惰な性格に反して凄く気配りしてるんだなーとか、祐希が「ゆっくり歩いてる」という行動だけでその時の祐希のあらゆる心情描写が出来てて素晴らしいとか、その後花代の手じゃなくてマフラーを掴むのも最後まで大人と子供という年齢・立場の差が縮まらなかったことを表現してて切なさが半端ないとか、色々言いたいことがあったものの全てに触れると内容がとっ散らかる可能性があったのでここに書いておく。


花代も祐希が髪の毛触ってたこととその気持ちに気付いてたということがやっぱり全ての救いになっていて、別れという切ない結果でありながら後味の悪さが全くない綺麗な幕引きに繋がった。花代も年齢差とかを気にして気持ちを伝えられなかったのかどうかはわからないけど、語られもせず描かれもしない心情描写をさり気ない仕草や行動で補完していくのって普通難しいんだけど話の流れで違和感なく仕込めるのは凄い。


花代が母親とのエピソードを話すタイミングも上手かったし、他男4人も話を阻害しない動き(千鶴のタックルのところが好き)をしてた。あと信号待ちで2人で並んでて、花代が母親との回想話をした時に回想する映像を流さず花代の口頭で済ませたのも2人でいるシーンを出来るだけ長く映すためだろう。二人が話してる後ろで子供三人が右から左に走って行き、その後左から右に女子高生三人が歩いてくるのは時間(実時間ではなく、花代と花代の母親との時間だったり、祐希と花代が出会ってから今までの時間)の経過を感じさせる。


まあ色々あったけどとにかく言うことないですね。文句なし。ここに到達するまでが遅すぎたという唯一にして最大の不満を勘定に入れても釣りがくるほどの出来栄え。この回だけ何度も見てる。アニメ見ない人とかもこれはすんなり受け入れられると思う。ただ1期のシンデレラ登場回を見ないとわからないという唯一の欠点(?)はある。なので是非見てみるといいですよ。