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原作の内容を削ってはいたものの目立ったオリジナル要素の挿入などはなく、ほとんど原作に忠実なアニメ化だったといえる。伊藤監督ってけっこう省エネ人間だと思ってたんだけど、その省エネさが比較的いい方向に働いていたと思います。内容に関してはそこまで重厚ではなく、良くも悪くも最近のトレンドになっているラノベの型に収まっているのかなという感じの原作なんだけど、そこに荘厳な音楽と美麗な背景を付加することによって非常に深みのある壮大な物語のように見えてくる。ここらへんはもう梶浦由記の一人勝ちだなーという印象を受けるのだけど(実際このアニメは梶浦由記が音楽手掛けてなかったら魅力半減してただろうなと容易に想像できる)、それはそれでまさしくアニメ的な作り方なので納得はできる。所々に劇場映画を意識した演出が見られるのはご愛嬌。


おれはこの作品に関しては原作を先に全部読んでいたので内容はほぼ完全に把握していて、原作未読者がこのアニメをどういった目で観ているのか全くわからないのだけど、恐らく「説明不足だ」と感じられる点はほとんどなかったように思う。ここに前述の伊藤監督の性格が現れていて、2クール目ALO編のトンキーなど削ってもメインストーリーに直接影響がないような話は完全に取り除いているので、そのぶん説明的な描写に時間を割く余裕が生まれていた。やっぱりこの人はオオカミさんみたいな日常ものよりこういう異世界ファンタジーみたいなものを手掛けたほうが上手くやれるんだなーと思いました。


キャラメイキング、特にヒロインであるアスナの掘り下げがあんまり出来ていないので真のヒロインは妹直葉であるとまことしやかに囁かれているけれど、実際の所このアニメにおけるヒロインは直葉だったと考えている。それはオフ会の二次会集合前におけるキリトとリーファの踊りと会話から感じ取れる。キリトがALO編のアバターのままでいるのもそれを象徴しているかのようだ。キリトにとっての過去はアインクラッドを攻略していた時で、歩むべき現在、そしてこれからの未来はALOにおけるキリトの姿でなくてはならない。妹の事情を受け入れて自らにけじめをつけたからこそ現在があり、その現在は今後のアインクラッド全層攻略という未来と地続きになっている。


あとこのアニメはOP・ED含め全般的に音楽が素晴らしい。1クール目はベースの低音が映えるどこか鬱屈とした印象のあるOPと幻想的開放感に満ちたED、2クール目は空に突き抜けるような伸びやかなOPと雲を抜けたその先を描くようなEDと配置に余念がない。梶浦由記の手がける幻想的かつ神聖さを帯びた荘厳な劇伴が物語のグラデーションになっている。アニメにおける音の重要性は今更言及する必要もないだろうが、ことこのアニメに関してはこの音がなければ成立しなかったといってもいいだろう。


残念だったのは戦闘シーンを筆頭にコンテがあんまり練られていない印象を受けたこと。いや実際は練ってるんだろうけどどうも下手に見えてしまう。戦闘でよかったのはALO編における空中戦。カメラワークを生かした素早い視点切り替えによる戦闘のスピード感と迫力の応酬は素晴らしかった。それだけに地上戦の出来が悔やまれる。来るべき2期ではそこらへんの弱点をしっかりカバーしてもらいたい。まあなにはともあれ半年お疲れ様でした。