ラブライブ! #10 「先輩禁止!」

すっかり脳味噌はラブライブに侵食され愛に生きることを決意したおれのような廃人ラブライバーにとってはまさしく理想的と言えるエピソードだったのではないでしょうか。レッスンやライブみたいな学校内での限られた範囲内で進んでいたストーリーが真姫の別荘で合宿をするということで一気に外向きに広がっていった。秋葉原でのライブとかはリアル感あったけど、別荘とか海となると途端にリアルな質感が剥ぎ取られてフィクションとしてのラブライブが表出してくる。

合宿をしたことによって今まで統率がとれていたように思えたμ'sメンバー内での微妙な意見のズレや性格の違いが表に出始めるものの、やっぱりこのアニメは特別にシリアスな空気を作ることは避けているようで、最終的には希が意見を統制して皆を導くという結果に持ち込んでいる。もともと副会長という、リーダーを補佐する役割に就いていたこともあってか周りのことを敏感に察知する能力はメンバーの中でも一番長けていて、それを嫌味や違和感なく発揮させる良いシナリオだった。

最後に真姫が希ではなくエリチカに対して「ありがとう」と言った意味が一度目に見た時にはいまいち理解出来なかったんだけど、二度目に見た時にだいたい理解できた。重要なのは真姫のことを「中々大変そうね」と最初に発言したのがエリチカだったということである。それを聞いた希が動き始めた、つまり希の行動にエリチカが繋がっていたことを真姫が見抜いていたということになる。で、真姫がなぜそれに気付いたかというと希と真姫が夕食の買い出しに行った時に希が「本当は皆と仲良くしたいのに素直になれない」という真姫の本心を指摘し、そのあとに「あなたに似たタイプの人をよく知ってるから放っておけない」と真姫に言っていて、この「似たタイプの人」がエリチカだと感づいたからだろう。

希と真姫が二人きりになる場面はもう一つある。一度目は夕方で希の方から真姫と二人きりになるように行動したのに対して、二度目は早朝で真姫の方から希と二人きりになるように(偶然性が強いけど)行動している。二度目の時は昨夜の枕投げなどのことを含めた希の行為に向けて「どういうつもり?」と尋ねていて、これに希が「別に真姫ちゃんのためじゃないよ」と答えたことによって真姫の中で前述のエリチカとの繋がりのことに確信を持てたのだと考えられる。だから最後、海に向かって全員が手を繋いで立っているシーンで真姫はエリチカと希の間に立って両者の手を握っているのである。

今回は先輩禁止というタイトルからわかるように、先輩後輩という垣根を取り払うことが第一目的であって、あくまで練習などは二の次になっている。だからμ'sのメンバーが練習をする描写が全くなかったことに対して「お前ら練習しろよ」というのは甚だ不適切である。μ'sのメンバーの練習描写が少ない、あるいはメンバーの一部に練習しようという意思があんまりないのは『けいおん』において放課後ティータイムのメンバーが練習しないのと同じ理由。μ'sが結成された理由は廃校を阻止するためだけども、その奥へ踏み入ってみると「μ'sであることは他の皆と仲良くするための手段である」という核が見えてくる。平沢唯がギターの腕を上げてバンドに熱中してしまうとバッドエンドを迎えてしまう未来が見えてしまうように、高坂穂乃花がストイックに練習してアイドルであることに必要以上に自覚的になってプロ意識を持つようになってしまえばそれはバッドエンドまでの道を一直線に歩いていることになる。熱中しすぎることはストーリーを生真面目なものにして、硬度は上がるものの柔軟性は失われる。まあ一長一短だ。

結果的にもともとほとんどのメンバー同士がフレンドリーだったため目に見えて先輩後輩という垣根が取り払われたのは花陽と真姫だった。皆の先輩(最上級生)という立ち位置であるエリチカ・希・にこの3人は後輩に対して「後輩だ!」という風に変に気を使う必要はないので、先輩後輩禁止という制度は実質穂乃花たち2年生と真姫たち1年生に課せられることになる。しかし穂乃花や凛はそういう上下関係には疎く、ことりは性格的に柔軟性があり、海未は普段から日常的に敬語を使うので実質的にどれくらい先輩に対して気を使わなくなったのかがわかりづらい。つまりは半ば消去法的に真姫と花陽が選ばれたことになる。ともあれ他人と気さくに接するということが困難だった真姫の性格が希の行動によって少しは改善されたことがμ'sの全体的な雰囲気の緩和に繋がるだろうし、今回の合宿は次回のライブに向けて皆が一層団結するための良いイベントとして機能した。次回のライブ回に期待せざるを得ない。