ラブライブ! #11 「最高のライブ」

おれが10話を見て書いたエントリが残念ながら的中してしまった。やはり高坂穂乃果がストイックに練習をして本格的にアイドルとしての自覚を持ち始めるとバッドエンドを迎えてしまうのだ。ラブライブというプロジェクト全体の話は別として、このアニメにおけるμ'sとは何よりもまず「皆を強く結びつけるもの」であり、それよりも先に「アイドルとして〜」という部分が立ってしまうと必然的に中心から崩れていく。中心とは言うまでもなくμ'sの精神的支柱である穂乃果で、だからこそ今回崩れたμ'sを立て直すことになる次回のタイトルが「ともだち」なのである。μ'sのメンバーがどんな辛い練習もこなせてきたのは「廃校阻止」という理由以前に皆が友達以上の関係性でもって結び付いているからで、次回はおそらくその根底である友達という関係性に立ち返ることになるのだろう。

しかし、ただ単純に「友達であること」に立ち返るには穂乃果のダウンだけでは要素として不充分で、だからこそことりの留学(たぶん)という新たな要素を加えることになった。「ともだち」であることに立ち返るためには現在の関係性や距離感に変化がもたらされる必要があり、ことりが今いる場所を離れて遠くに行く、つまり穂乃果たちと離れ離れになってしまうかもしれないという事態が今までずっと続くと思われていた関係に変化を生じさせ、改めて皆とどう向き合うかという基本部分を問われることになる。ことりは現段階では「ここを離れる」という方向に気持ちが傾いているが、穂乃果が倒れたという事実がその気持ちを変えていく。穂乃果の件がもたらす意味は、ことり個人と他のμ'sのメンバーとでは大きく違っていて、ことりは穂乃果が倒れてしまったことでμ'sという存在が自分にとってどんなものであるかを確認することになるだろうし、他のμ'sメンバーは穂乃果の存在がどんなものであったかを確認することになる。いずれにせよそれらが向かう最終的なゴール地点は「ともだち」になるし、だから今回の件はおそらく次回で決着が付くだろう。

ライブに関しては「穂乃果がいつ倒れてもおかしくない」という圧倒的な緊張感が終始張り詰めていて、8話・9話の多幸感に満ち溢れたライブとはまるで様子が違う。緊張感といえば3話の穂乃果・ことり・海未が3人で行ったライブも緊張感があったが、今回はその緊張感とはベクトルが違う。ライブが成功するか否かというもっとも原初的な部分の緊張感だ。3D演出だけでなく手書きの箇所もあり、激し目の振り付けが多かったのも「踊ってる途中に穂乃果が倒れてしまうのではないか」という不安を視聴者側に植え付ける要因のひとつになっている。ちなみに曲自体は凄く良くて、9話で披露された「Wonder zone」がややAKB的なメソッドに則って作られた曲という質感だったのに対して、今回初披露された「No brand girls」は非常に躍動感に満ち溢れた、μ'sのファーストシングルのような「らしさ」を感じられる楽曲だった。ファーストシングルの頃に比べて基本的なメロディそのものが研ぎ澄まされているので単純にJPOPとしても聴きやすい。

講堂を使えるかどうかというくじ引きをアイドル研究会の部長であるにこがやったという事実が、穂乃果でもエリチカでもなくにこにアイドル研究会の部長を任せたままなのは何故なのかという疑問を解消した。くじ引きで講堂を外して屋上でライブをすることは脚本的に最初から決定事項であったはずだから、要するに誰かが「ハズレ役」を引き受けなければならないわけで、穂乃果やエリチカはその重責を背負うことが出来なかった。失敗を重く受け止めて沈むことなく、むしろ開き直るような図太い精神を持ったキャラクタでなければハズレ役は任せられない。そうなるともう答えは見えていて、3年生という最年長組に属していて且つハズレを引いた事実を跳ね除けるような強さを持っているにこが適役という結論に達する。おそらくメンバーの中でメンタルが一番強いのはにこだろう。良くも悪くもあの「にこにこにー」を磨いてきたことによって精神的に物凄く強くなっている。

ライブ前の「できると思えば、何だってやってこられた」という穂乃果のモノローグが実はこのラブライブというアニメそのものを総括するような台詞で、なぜかというと穂乃果は1話目でエリチカ達にスクールアイドルとして活動することを否定された時に「私やっぱりやる、やるったらやる!」と宣言していて、2話目からはまさに「できる」と確信している穂乃果に引っ張られるようにメンバーが集まってμ'sが出来上がり、ライブをしてスクールアイドルランキング19位に上り詰めるまでに成長した。ここまで来られたのは穂乃果がひとえに「できる」と思ったからで、実際穂乃果が諦めた事は今まで一度もなかった。3話でライブに誰も人が集まらなかった時も、赤点を免れないとアイドル活動ができないと言われた時も、エリチカから拒絶された時も、いつだって穂乃果だけは諦めるという選択を思い浮かべることはなかった。このラブライブの物語とはつまり穂乃果が「諦めなかった」物語なのである。

今回は穂乃果が主役でありながら裏でことりの物語が進んでいて、それが光と影のコントラストを生み出している。穂乃果がいつも以上にポジティブになっていく一方でことりは留学のことに関して一人でどんどん葛藤していくというという対比が物語を不安定にさせる。穂乃果のいつも以上のやる気は最終的に悲劇に繋がったが、ここがおそらく話数的にも最下層だろうから、ここから上がっていくことを考えるとことりの留学は這い上がってきた穂乃果が中心となって解決されるだろう。もしかしたら穂乃果と海未以外のメンバーには知られないまま留学の問題が解決するかもしれない。それは9話ラストで穂乃果・ことり・海未の3人が「ずっと一緒にいよう」と宣言したことから推測できる。ことりの留学の問題はこの9話の宣言によってμ'sの問題という以前に、穂乃果・ことり・海未の幼馴染みとしての問題だと位置付けられた可能性があるからだ。

次回で「ともだち」という基本に立ち返ったμ'sが最終回でどこに向かっていくのかが目下一番気になるところ。尺的にラブライブ出場まではいけないにしてもその切符を手にするところまではいきそうな気がする。そうなれば2期はもはや決まったも同然だ。