ガールズ&パンツァー 12話(最終話) 「あとには退けない戦いです!」

完璧だった。完璧なんてものはこの世に存在しないことはすでに承知の上だが、我々視聴者が体感したあの25分間はまさに完璧としか言いようのない時間だった。ほとんど王道一直線で最高レベルの熱量を誇るストーリーに全ての力を振り絞った作画・演出、キャスト陣のキャラクタと一体化したような熱のこもった演技に加え、ここぞという場面で使われる効果的な音楽が上乗せされて爆発的な推進力を生み出した。最終回にしてその勢いはあまりに圧倒的で他の追随を許さない。模範的な最終回の枠を遥かに飛び越えたその出来映えにはただひたすら感動がこみ上げてくるばかりである。さすがに全てのアニメに対して「最終回とはかくあるべき」というのは酷だろうと思ってしまうほど近年稀に見る純粋な熱さを提供してくれた作品だった。

最終回はまずマウスを倒すというところから始まる。史上最大級の重量戦車をどう攻略するのか、という部分については恐らく全ての視聴者が共有していた疑問であろうが、この問題の解決法は恐らくほとんど全ての視聴者が思いつかなかったものであろう。「戦車の上に乗る」という発想はむしろ戦車についての知識を蓄えていない人間のほうが出てきやすいものだと思う。こうした型破りの戦略こそ前回のエントリで述べたような西住みほ流の真骨頂だろう。オーソドックスな戦術を踏まえた上で敵がまるで思いつかないようなアイデアを組み込んでいる。「戦車を戦車の上に乗せて砲身を回転させない」ことによって自由を奪われたマウスを一気に叩くという成功率の低そうな作戦を優先的に実行しなければならなかったのはそれほど大洗女子側が追い詰められていたという証左である。結果的にみほの作戦は見事に成功し難攻不落のマウスを陥落することができた。「予想を裏切る」という展開は数あれど、「誰も思いつかなかった」という展開は非常に難しく、それゆえ非常に珍しい。

次に大洗女子側は市街地に戦場を移して黒森峰本隊と戦うことになるが、ここで1年生チームが目覚ましい活躍をすることになる。ダージリン率いる聖グロリアーナ女学院との試合では戦車を放棄して逃げていた1年生たちが諦めずに勝つことを目指して逃げずに敵に立ち向かっている。その姿からは明確な成長が感じられ、同時に試合にかける熱さも伝わってくる。1台目は綿密に練った戦略のもと倒すことが出来たが、2台目の戦車はそうではない。戦略も何もない真っさらな状況、その場の咄嗟の判断で相討ちを選んだのである。敵戦車に密着してギリギリのところまで引き付けてガードレール下に落とすという相討ち覚悟の戦法を選んだのは、みほたちのフラッグ車のもとに向かわせないという根本の目的を達成するためだった。今回でついに1年生チームは与えられた目的を達成することが出来たのである。

そしてこの後から最後の戦いとなるまほとみほの対決が始まる。黒森峰の副隊長であるエリカたちを大洗女子のバレー部チームと自動車部チームが足止めしたうえでの最終対決なので時間も限られていた。限られた時間の中でのみほとまほの戦いは細やかで臨場感のあるカメラワークを駆使した緊迫感の張り詰めたものだった。自動車部チームからの連絡が来たあとにあんこうチームの5人が戦車内で会話するシーンが挟まれることで、それまで若干まほ側が優勢だった戦闘状況をリセットすることになった。戦車の中では全員が冷静で、それに対して黒森峰副隊長エリカは非常に焦っていて、ここで何となく戦いの結末を暗示している。そこからBGMが流れず戦車の駆動音・摩擦音・銃撃音が響き、勝敗が決するまでに放たれる言葉はみほとまほの「撃て」という号令しかない。この戦いはみほが言っているように「グロリアーナ戦で失敗した」戦法なのである。グロリアーナ戦は今までの大洗女子学園の試合の中で唯一敗北した試合である。つまり今回最後にグロリアーナとの戦いをなぞることによってグロリアーナ戦の時からの成長を示すことができた。あの時は失敗したが、今回は失敗しなかった。練習試合では負けてもいいが、本番では決して負けてはいけなかった。最後に以前失敗した戦法で挑んだのはみほに「成功する」という確信があったからだろう。あの時とは違って5人全員の気持ちが通じ合っていて完璧な連携が取れていた。だからこそみほは成功に確信を持てていたのだ。

結果的に過去の敗北を乗り越えて黒森峰に勝利し、トーナメント優勝を掴むことができた。今までの試合の勝利と違うのは、大洗女子側の全てのチームが必要不可欠な役割をしっかりと果たしていたことだ。どのチームが欠けても勝利はあり得なかった。最後にして初めて全員が一丸となって勝利を掴み取ったのである。まさしく大団円と言うべき素晴らしい結末だ。決勝戦に相応しい内容で最初から最後まで0コンマ1秒たりとも目が離せなかった。優勝したことによりみほは今まで硬直していたまほとの関係を融和できたし、本人は恐らく気付いていないということなんだろうけど、遠くで見ていた母親に自分の流儀を認めさせることもできた。西住みほはこれで西住流に縛られることもなくなった。学校の存続と自らのやり方が間違っていなかったことの証明を同時に達成することができたのだ。これ以上ないハッピーエンドである。だって敵も味方もみほたちの母ちゃんでさえも最後にはみんなが笑っているんだぜ。しかも優勝しても大洗女子学園の戦車道は続いていく。ここが物語の終わりでもあるが、同時に物語の初めでもあるのだ。だから続編を作れる余地はいくらでもある。ただ昨今の流れを鑑みるとアニメ2期よりも劇場版のほうが現実的かもしれない。

あとはこのガールズ&パンツァー全体についての話。このアニメの演出は最初から最後までずば抜けて高いクオリティで、特に戦車の臨場感に対してどこまでも突き詰めていた印象がある。最後の戦車戦は言わずもがな、最初の練習試合の時からただならぬ様子で「これは想像以上に力が入ってるぞ」と我々視聴者の期待を高めていった。しかしもちろん戦車に関する演出以外にも素晴らしい部分はたくさんある。最近だと11話で大洗女子の戦車が川を渡るシークエンスや、最終回で優勝した後にみほたちのもとに仲間たちが駆け寄ってくるシーン。そしてまほとみほの会話。細かいんだけど、「西住流とはまるで違う」とまほが発言してから、みほが「やっと見つけたよ、私達の戦車道!」と言うまで映像はまほの視点で映し出される。ずっと大洗女子側の視点で映し出されてきた物語が、この場面だけ敵であった黒森峰のまほの視点になる。それはつまりこの瞬間にまほは敵ではなく「みほの姉(家族)」として描かれたのである。だからこの時に視点をまほに託すことができた。まほはもうみほの味方(理解者)になったのだから。

作画は驚くくらいの安定感だった。多少崩れる場面はあっても圧倒的な熱量と勢いでほとんど意識が向かないようになっている。時間を掛けて作られた11話と最終話はもちろんだけど、ギリギリの制作スケジュールの中で作られたであろう7〜9話あたりでも作画は高い水準のまま保たれていて、アニメーションとしての完成度を損なうことなく試合における臨場感やキャラクタの魅力を引き出す役割をしっかりと果たしていた。

音楽に関しては前に述べたようにブラスバンドによる壮大なBGMで戦いを直接的に盛り上げていた。これは甲子園に近いものがある。そもそもこのガールズ&パンツァーというアニメ自体、スポーツ観戦をしているような感覚に近いところがある作品なので、この系統のBGMにしたのは正解だろう。OPでは始まりを感じさせると同時に本編に向けての助走のようなスピード感のある楽曲を、EDでは主要キャラクタ5人が歌う楽曲を用いていて、このバランス感覚が絶妙だった。ちなみにEDを耳コピしたところ出だしのコードがEで「おお、ENTERのEだ!」とひとり感動してたんだけどたぶん偶然ですね。まあでも創作作品なんてものは運も味方に付けなければ長生きできないのでこういうプラスの偶然は多いにアリだと思う。曲自体も単純に良かった。

これほど充実した内容をこれほど完璧に近い形で映像に落とし込むことが出来たのは正直言って「時間を掛けたから」という要素が大きく関係している。まあ時間を掛けることは悪いことではないが、問題なのは「時間を掛けすぎて本放送に間に合わなかった」という部分である。他のアニメは1クールという時間の制約をしっかり守って作品を仕上げているわけで、さすがに「クオリティ上げるために本放送落とします」というのが通用してはアニメの放送のルールそのものが根本から崩れてしまう。このアニメの11話と最終話のクオリティが異様なまでに高いのはある意味当たり前なのである。だって他のアニメより多く時間をかけたのだから。しかしそれは本来許されざることなのを忘れてはいけない。これを認めてしまい前例を作ってしまえば他の多くのアニメが放送を落とす可能性がある。アニメ制作現場が常にギリギリの状況だというのは痛いほどよくわかっている。いや、実際のところその場に居合わせてはいないのだから自分は何もわかっていないのと同じなのだろう。しかしそれでもなお、このアニメが本放送を落としてしまったことは許してはならないのだ。他ならぬアニメ業界のためにも。

しかし、本放送で視聴せずBDや録画などで後から視聴する人たちにとってはその問題はあまり関係のない話でもある。だからおれたちはこのアニメに対して上述の問題を加味した場合と無視した場合の2通りの評価を下さなければならないのだ。加味した場合はもちろん作画・演出面の評価はある程度下げて判断しなければならない。だが、このアニメに纏わるあらゆる問題を無視して、『ガールズ&パンツァー』というひとつのアニメ作品を真っ向から評価する場合、我々は惜しみない賛辞でもって迎え入れることになる。『ガールズ&パンツァー』はアニメーションとしては近年稀に見るほどの素晴らしい出来映えであり、その純粋で熱い友情と迫力のある戦車での戦いを中心としたストーリーや、ハイレベルな作画・演出・音楽に最初から最後まで楽しませられたからだ。

ガールズ&パンツァー』は紛れもなくアニメとしては文句無く傑作と言い切れる作品であり、今後も長く語り継がれるべき作品だ。