はたらく魔王さま!

今期最大のダークホース。久々にラノベ原作アニメで大当たりが来た。基本的にどんな時でもギャグの精神を持っていながら時折ラブコメやバトルも顔を 出し、その全てを卒無く纏めるという脚本面での手腕も素晴らしいし、一昔前のドタバタコメディへのリスペクトかのように手を替え品を替え繰り出されるアク ションと会話のドッヂボールの応酬が一周回って新鮮にも見えた。圧倒的なオリジナリティという程ではないにせよ、魔王と勇者という構図をギャグのそれに落 とし込んだ原作者の発想とアニメにおける会話のテンポや過度にならないギャグ演出が合わさった結果、多くの視聴者が楽しめる万人向けに近いアニメになっ た。

細田直人という監督は原作を余計に改変するというよりは「原作の悪い部分をそのまま映像として表に出してしまう」タイプの人で、『みなみけ〜おかわり〜』や『未 来日記』もそうだったんだけど、このアニメに関してはそもそも原作にあまり目立った粗が無いらしく、細田の悪所増幅能力が発揮されることもなかった。コン テを切った岩畑剛一や小林智樹なども良い仕事をしていたし、演者もギャグ寄りのややオーバーな演技で減り張りをつけていた。音響監督の仕事も良くてスタッ フの能力がかなり高度に発揮された作品であるように思う。

設定は斬新なもののシナリオは前述の通り本当にオーソドックスなコメディ路線で、それをベタに感じさせないというのはやは り相当に凄いことだと思う。エンテ・イスラ語によるイントネーションの笑いを敢えて1話で捨て去ったという思い切りの良さは贅沢にも感じたが、そもそも元 が活字媒体なので早めに活字から連想し辛い音声の部分を切り離したのだと考えると妥当な判断だったと言える。アニメではオリジナルでいくらでもその手のネ タを作れるにも関わらずしっかり原作に忠実にストーリーを進めたのも最終回を見てから全体を振り返ってみると正解だったと思える。まあオリジナル回も原作 の筋に沿った違和感の無い内容だったのでオリジナルを作っても成功していたような気はするが。

あとはキャラクタデザイン、特にちーちゃんこと佐々木千穂のキャラデザはかなり練られていた。普段の状態で若干SDキャラ に見えるように意識して作られていて、そこから滲み出る愛くるしさに惹かれていた人も多いだろう。また各キャラの表情の変化も多彩で飽きさせることがな かった。勇者エミに関しては「落として上げる」という物語の王道パターンを表情に適用するという離れ業をやってのけていて、最終回Cパートにおける勇者の 横顔はそれまでの勇者の怒り顔のイメージを払拭する程のパワーがあった。魔王側(真奥・芦屋・漆原)は狼狽えた顔のバリエーションが豊富で、ここに勇者側と魔王側の現実世界における力関係を見ることが出来る。

キャラクタ相関も敢えて「恋愛」「友情」などの普通の結び付きを排して、『はたらく魔王さま』というタイトルに相応しい 「上司と部下」という関係性が強く表出していた。上下関係や敵対関係になると物語が円滑に進むのはやや皮肉っぽいなと思いつつも、唯一「恋愛」を地でいく 佐々木千穂というキャラクタを視聴者が応援しやすい構図になっておりヒロインへの導線が上手いと感じさせられる。女性キャラが複数いるからといって全員が 主人公である魔王のことを好きになるという安易な関係を生み出さないのも、集団でも単体でもキャラの魅力を押し出せるという余裕と自信が伝わってきた。

極度にシリアスに傾かず、バトルでは絶妙なバランスで緊張感を保ち、コメディパートでは各キャラが思い切り弾けるという理 想的な作品だった。最終回で初回の話に直結させるカツ丼のイントネーションや勇者から魔王への傘の受け渡しのシーンもシナリオの回帰ではなく進歩を感じさ せる。所謂「綺麗に纏まった」作品というのは得てして人々の記憶に残るような名作というポジションには中々収まりにくいのだけど、このアニメは2013年 を代表するギャグアニメとして記憶に残り続けることになるだろう。原作のストックもまだ結構残っているらしいので早めに2期を制作してほしい。