刀語

実は本放送を見ていなかったのでこの再放送が初見ということになる。本放送を見なかったのは単純に放送形態が特殊過ぎて見るのが面倒臭かったからなんだけど、正直今期の中でも一番の面白さどころか今年の中でも暫定一番の面白さだったのでもっと早くから見ておけば良かったと激しく後悔している。傑作も傑作、大傑作の部類である。貧窮の身であるにも関わらず最終回放送後即座にBDBOXとサウンドトラック集を購入してしまうくらいの魅力ならぬ魔力を持った作品だった。

1話約50分という特殊な尺の使い方ゆえ物語に奥行きを出すことが出来た、つまり他の作品と比較してしまうのは違うのではないかという思いを抱えつつもやはり面白いものは面白いのでひたすらに褒めちぎることになる。西尾維新はやはり天才だった。単純な主人公の成長物語でもなければ恋愛も戦闘も一番重要な要素というわけでもない。強いて言えばこれはヒューマンドラマの形態に近いが、そこに歴史という要素を注入することでポップな大河ドラマとしての異質な物語が浮かび上がってくる。

とはいえ大河ドラマによくある堅苦しさは一切感じさせず、小気味良い七花ととがめの掛け合いを中心に刀集めを進め、最後にはその集大成として重量感のある話を拵える。物語の構成は全くもって文句無し。これほどに鮮やかで万華鏡のように次々と移り変わる展開を繰り広げる作品にはあまり出会えないだろう。刀の所有者も皆一癖あって敵としてではなく純粋にキャラクタとしての個性が確立されていてキャラメイクの上手さも窺い知れる。おかげで七花と姉の七実との闘いや七花ととがめの別れ、実質的なラストバトルである七花と衛門座衛門との闘いはもう感動の嵐だった。

月一話放送という元々の放送形態からか、とにかく作画が異常なほど安定していたし、演出も劇場作品と思えるレベルだった。特に最終回の演出は凄まじい。一気にラスボスクラスのキャラクタを12人倒すという未だ嘗て無い究極の展開に溢れんばかりの熱量を加え、とがめを殺した衛門座衛門と七花との闘いにはただひたすらに圧倒された。基本的にこのアニメは戦闘シーンにおいてあまり動きを表現せず、奇策士とがめの奇策を印象付けるような特徴的なコンテで惹きつけるというレベル高いことをやっていたのだけど、最終回では七花のリミッターが外れたことを利用して作画の方もリミッターを外してきた。ここにきての作画の暴れように圧倒的カタルシスを感じる。

他のアニメではあまり聞かれない珍しいタイプの音楽をBGMとして使っていたのも特徴的だ。それすら武器として扱えるこのアニメの懐の深さに気付かされる。しかし山場では繊細な旋律の音楽を流すなどしっかり基本を踏まえた上でBGMを多様にしているので違和感を覚えることはない。とがめの最期の言葉を七花が聞いているシークエンスの音楽は素晴らしかった。

とがめが死んでしまったことにも確固たる理由を持たせていたし、否定姫も最初の方から徐々に描写を積み重ねていたので最後に七花の旅に同行する流れも納得できた。全てにしっかりとした理屈あるいは理由が備わっている。結果として刀語は世の中のほとんどの創作作品が手本にすべきアニメ作品になった。生きているうちにこれほど完成度の高い作品に出会えたことは恐らく幸せなことなんだろう。