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健全ロボダイミダラー

今期最大のダークホース。完全にノーマークだった。放送前から凡百の紳士アニメと同じ括りのアニメだと決め付け舐めてかかってた自分の愚かさを恥じ入るばかりだ。蓋を開ければシナリオは良く練られているし、キャラクタは途轍もない個性に満ち溢れているし、作画・演出は終始尋常じゃないハイレベルで安定しているし、音楽は暑苦しいものからクールなものまで各種満遍なく取り揃えられている。ここまで隙がないアニメだとは思わなかった。一応は紳士アニメという分類に属するのだが、恐らく今後最低でも10年はこのアニメを超える紳士アニメは出てこない。ロボットアニメとしても最高だった。見た目は格好悪いロボットを作画と演出で格好良く見せるという、まさしくアニメでしか見せられないロボットの魅力を余すことなく発揮している。

ストーリーは一見すると下品で馬鹿みたいなものに見える。実際キャラクタの掛け合いは生徒会役員共より直球で下らない。しかしこれを許容させる、もっと言えば気持ち悪いと思わせないキャラクタの個性が確立されている。2部構成になっているようで実際はひとつに繋がっているシナリオ構成も芸が細かくて素晴らしい。撒き散らされたボケを全て拾い上げるツッコミの役割もしっかり割り振られており、下ネタを扱うことの薄ら寒さは全く感じさせない。下手すれば甘くて見てられないような将馬と霧子のカップルも3人の技術スタッフや長官がカバーすることで視聴者の溜飲を下げる。何も考えられていないようで恐ろしいくらい細部まで計算されているアニメだ。

ロボットアニメにおける王道とも言える熱いバトル展開も浮くことなくシナリオの中に溶け込んでいる。ここまでギャグの方向に振り切れてしまうと真面目な話が出来ないのではないか、という不安もあったが、最終回に近づくにしたがってストーリーの熱量が目に見えて増していった。このアニメの最大の特徴は、本来敵側であるはずのペンギン帝国の面々が善人で、主人公側である美容室プリンスの面々が悪人に見えるという捻れ構造だ。おかげで本来なら主人公側に感情移入するはずの視聴者はペンギン帝国の方へと感情移入することになる。ペンギン帝国の主力兼マスコットキャラであるリッツのキャラメイクも上手かった。敵側に感情移入しやすくなっている作品は総じて名作という持論がまた真実味を帯びてきたようだ。

美容室プリンス側のキャラクタはとにかく欲望に忠実に生きている姿がありのままに映し出されていて、これがいわゆる悪人に見えてしまう所以なのだが、悪人に見えるからといって嫌悪感を抱かせるわけでもない。この匙加減が凄まじかった。真玉橋孝一や喜友名霧子といったキャラクタは一歩間違えれば視聴者に嫌悪感を与えてしまう個性を持っているのだが、孝一は楚南恭子、霧子は天久将馬というパートナーが緩衝剤となり負のイメージが払拭されている。もっとも霧子と将馬に関しては緩衝剤というよりシナジー効果で負のイメージが高まっているかもしれないが、この2人の掛け合いを長官が腐しているのでプラマイゼロといったところだろう。

それらの圧倒的な個性を持つキャラクタを最高の状態で動かしているシナリオはキャラクタ以上に最高のクオリティ。全ての人物・事物に意味があって、特に将馬がペンギンから元の人間に戻るシークエンスは鮮やか過ぎる伏線回収だった。最終決戦で又吉長官が敵の幹部に言い放った「健全とは何か」という部分は現実の規制問題の本質をも突いている、非常にクリティカルなものだ。これが説教臭くならず、熱いセリフとしてこちら側にダイレクトに伝わってくるのは脚本家と演出家の功績だろう。最後にちょっと泣かせてくるのも心憎い。

そして作画。これは本当に凄かった。ロボットバトルにおける作画の素晴らしさの重要度は言うまでもないが、このアニメはとにかく迫力とリアリティにこだわっていた。だからこそダイミダラーが出撃する時に必ず街のどこかの建物が崩壊して街の人々から「ダイミダラーのせいで街に被害が出る!」という声が上がるのだ(ちなみにペンギン帝国は街の建物や人間に対して最大限配慮して被害が及ばないように海上で戦闘していた)。海上での機体同士のぶつかり合い、その衝撃により生まれる波飛沫、衝撃波、煙が渾然一体となって描かれている様はまさに圧巻。

その作画の素晴らしさを最大限に生かす演出も効いていたし、前述のとおり音楽はサントラの購買意欲を刺激する多種多様ぶり。OPの男気溢れる暑苦しさとEDのキッチュなポップさは相反することなく相互作用で魅力を増幅させていた。目立った欠点がほとんど見当たらない。強いて言えば後半で遊びと真面目さのバランスがやや崩れたことくらいか。まあそれも瑣末な問題にすぎない。最初から最後までフルスピードで走り切った紛れもない名作。最後は綺麗に幕を閉じたがやはり続編を見てみたい。