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それでも世界は美しい

近年の少女漫画原作のアニメの中でも屈指の出来映え。これは文句無しの名作だろう。少女漫画自体には凄まじくハズレが多いが、少女漫画原作アニメはなぜか凄まじくアタリが多い法則は未だに健在だった。まあ今後アニメ化する弾が無くなって来た時に少女漫画アニメ化ブームが来てしまえばこの構図は変わってしまうかもしれないが。

最近の少女漫画では珍しく異世界を舞台にしていて、シナリオも80〜90年代によく見られた古典的王道ながら、却ってそれが新鮮に感じられるような構成になっていて毎回感心させられた。キャラクタの言葉というものに異常なこだわりを持っている作品で、このキャラクタならこう喋るだろう、という思考が一切排されキャラクタ自身が自由に喋っているような生き生きとした空気が漲っていた。それでいて主人公の「アメフラシ」という能力に根付いた繊細でどことなく影を含んだ演出が心を揺さぶってくる。

そもそも「雨」というファクタは、主人公の心情を代弁したり何か悲しい出来事が起こった時にその印象を強烈に刷り込むための演出の一つとして用いられることが多いが、この作品がそうした作品群と一線を画するのは主人公が自発的に雨を降らせることができる、という点だ。だから雨は演出というよりは主人公の心情に直接的に紐付いた「行為」として処理される。雨とは常にニケが誰かのために降らせるものだった。

しかし雨を降らせることができるのは主人公のニケだけではない。ニケの師匠であるトハラも勿論雨を降らせることができる。だから最終回前半の雨だけはニケのために降った雨だった。降らせる側の人間だったニケが降らしてもらう側になる。普通なら子供から大人になるに従って、降らせてもらう側から降らせる側に変化していく様子を描くのが自然だが、現在の時点からスタートして過去に決着を付けようとすることでトハラがニケを送り出す構図が成立した。ニケとトハラが本当の親子のような関係に見える絶妙な描写も素晴らしかった。泣ける。

この作品はとにかく主人公のニケが本当に素晴らしいキャラクタで、何をやっても絵的に映えるしそれだけで物語が動いていく、まさに作品の核であり原動力となっている存在なのだが、終盤でニケが囚われの身となった時だけはリヴィウスが代わりにニケの役割を果たしていた。元々リヴィウスはニケより歳下であり、ストーリーもニケが破天荒なリヴィウスを導いていくのが基本的な路線だった。しかし雨の公国に戻って、ニケはリヴィウスと結婚してから自分も変わったことを明確に悟る。変化を受け入れた者と受け入れなかった者とで行動が分かれていくのは必然だが、トハラの様子を見ていると「なら初めから縁談の話を断るか別の娘を選べば良かったのでは」という疑問が湧いてくる。ニケを選ぶ揺るぎない必然性がほしかった。

そして少女漫画では珍しく(?)、ヒロインの相手役となる男性、すなわちリヴィウスが意外にもまともな人間だった。まあまともではなかった頃の様子は本編で語られていないだけの話なんだが、ニケと結婚してから誰もがはっきりと分かるくらい明確に性格が変わっていく様子は少年漫画の主人公が成長していくような印象をも受ける。もしもリヴィウスがニケより歳上の男だったらきっとこんな印象は受けないだろうし、そもそも物語として成立しなかっただろう。リヴィウスがパッと見て小学生かと思うくらいのビジュアルだったからこそこの作品が成立してると言ってもいい。

ニケとリヴィウスを取り巻く人達も皆、執事やメイドとして必要以上の存在感を出さずに2人を影ながらサポートしていて、この出番の調節の仕方がとにかく上手かった。引き立て役にもなればサポート役にもなれる、この素晴らしい配分が端的に表れていたのが3話目だろう。雨の公国の人々はニケの姉含め個性が非常に強く、それゆえ画面に3人以上同時に映さないといった工夫が見られた。

そうした様々な細やかな計算により盤石になった物語をより魅力的に見せる要素として最大限に効果を発揮していたのが音楽だ。ここ数年のアニメの中で最も上手く音楽を用いていたように思う。「アメフラシの歌」に始まり劇伴はどれも音楽作品として単体で完成されていながら、アニメの中で用いられると相乗効果によりどれもが名曲に聴こえてくる。OP・EDも良かったが、とりわけEDがとにかく問答無用で素晴らしい。前田玲奈という声優はこのアニメで始めて知ったが、なぜこれほどの演技力と歌唱力をもった役者が陽の目を浴びてなかったのか謎すぎる(事務所の力とかいう大人の事情には眼を瞑る)。「アメフラシの歌」も「PROMISE」も彼女の歌唱力なしでは成立しなかった。普通に歌手活動してほしい。

全体的に音楽とシナリオの素晴らしさが目立つアニメだったが、キャラクタもみな魅力的で演出も秀抜だった。作画がもう少し良ければほぼ満点に近い出来になっていただろう。最近の少女漫画はほとんどネタ的に扱われていて個人的にはそれに納得がいかなったのだが、この作品はそうした潮流を断ち切ってくれる力を持っている。真新しい設定や驚愕の展開などはないが、ゆっくりと沁み渡る普遍的な作品なので万人に勧められる。できれば続編も見てみたい。