ハピネスチャージプリキュア

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最近はヤバめの思想が出てくると「宗教だ!」と言って処理する事例を多く目にする。これだと「宗教=悪」というイメージが定着してしまいそうだが、実際宗教というのは善とか悪とか、必要とか不必要とか、そういう対立を超えておれたちの日常生活に根付いており不可分な存在なので、前述の言い回しは「新興宗教だ!」が正しい。宗教と一括りに言っても世の中には本当に様々な宗教がある。今悪い意味で話題になっているイスラム教だって宗教だ。宗教が生活にどれほど密接に結びついているかによって人生は決まってくる。あるいは宗教が人生そのものに結びついている事例もある。生まれた場所が日本ではなかったら、食事のプログラムに「断食」が加わっていたかもしれないし、そもそも牛や豚の肉を食えなかったのかもしれない。日本はもともと宗教に寛容というか、いい意味でいい加減なので、信仰心の薄いおれのような人間は得をしている。もっとも、戒律の厳しい国に生まれていたらおれはこんな人間にならなかったのかもしれない。


信仰は基本的に目に見えないもの、抽象的な概念に向けられるもので、ともすればこの『ハピネスチャージプリキュア』の主人公であるキュアラブリーこと愛乃めぐみが度々口にする「愛があればなんでもできる」「愛は永遠に消えない」「愛は生まれ続ける」という台詞は古典的な宗教のそれに近く感じられる。とにかく何かあるたびに愛を俎上に載せてくる。心臓はあっても心は見えないように、脳味噌があっても愛は見えない。愛はどこまでいっても抽象的な概念でしかないが、それを確固たる存在だと信じてやまないめぐみは、巻き起こるありとあらゆる問題を愛で片付けていく。最終回においてブルー(諸悪の根源)が放った「ラブリーの愛で世界が照らされている」という台詞には背筋が凍った。敵であるレッドが言っていた「永遠はない、だから愛も永遠には続かない」という台詞の方が説得力がある。


悪い意味で全く現実的ではない世界観が最後までどうにも受け入れられなかった。根拠のない自信は生きていく上で必要不可欠だが、キュアラブリーを筆頭に味方側の人間がとにかく何でもかんでも抽象的な概念で処理していって、具体的なものをほとんど示せていなかったところに薄っぺらさを感じてしまう。友情とか親心とかに比べて、とにかく「愛」というのは範囲が広すぎる。そりゃなんでも愛で解決できるよな、という話だ。タイトルが「ハピネスチャージプリキュア」なのに幸福そのものには触れずひたすら愛についての説法を繰り返す、愛乃めぐみを教祖とする新興宗教の世界に迷い込んでしまったような心地だった。愛について無限の解釈があるように、幸福についても無限の解釈があるのに、めぐみはとにかく「愛は永遠で心の中に在り続ける」という信念を突き通す。敵であるレッドが世界を滅ぼそうとしているのは悪かもしれないが、「決意だけでは何も変えられない」「この世に永遠はない」などと主張そのものは真っ当で正しい。だから彼がめぐみに説き伏せられるという展開には本当に疑問しかない。人間は一人一人違う信念や主張をもっていて、それが完全に一致するということはほぼ無いに等しいし、その多様性は言論や表現の自由である程度は守られている。レッドの行動を阻止するのは正しいとして、レッドの主張を否定することは愛乃めぐみの信念に反するのではないか。それは果たして愛なのか。


はっきり言ってまともに面白かったのは第44話「新たなる脅威⁉︎赤いサイアーク‼︎」だけだった。クイーン救出までは減り張り・盛り上がりに欠けてて面白みが無かったんだけど、第44話はストーリー・作画ともに異常にレベルアップしていて格段に面白かった。ここから滅茶苦茶面白くなる展開あるぞ!と思った自分が愚かだった。結局めぐみはどんな窮地に立たされても何ひとつとして信念主義主張を変えることはしなかった。それはそれで良いことだ。ブレない主人公というのはそれだけでもう立派な強さを備えている。しかしめぐみの押し付けがましささえ感じてしまう愛のパワーには完全に引いてしまった。あとこのアニメで一番悪いのはどう考えてもレッドでもサイアークでもなくブルーとかいうクソ神様なのだけど、こいつが誰にも殴られたり咎められたりすることなくのうのうと生きて、終いには兄のレッドを励ます展開はさすがに許せなかった。


悪の三幹部たちが人間に戻っていた描写あたりは最終回で良かったところ。しかしシリーズ最高傑作のスマイルプリキュアはもちろん、前作のドキドキプリキュアをも大きく下回る出来だったのは悲しかった。放送直前はハートキャッチプリキュアに寄せたキャラデザのおかげで期待値がかなり高まっていたのだが、少し上げすぎてしまったのだろうか。まあ終わったことを悔やんでも仕方ないので、2月から放送される『GO!プリンセスプリキュア』(略し方が分からない)に期待するしかない。