ハロー!!きんいろモザイク 第07話「マイ・ディア・ヒーロー」

もう残り5話だという事実から目を背けるために1話から最新話まで何回も繰り返して視聴してみたところ、余計に時の移ろいを感じて哀しくなった。この世で最も忌むべき存在なのはもしかしたら労働ではなく時間の流れなのかもしれない。
しかし見れば見る程にきんいろモザイク最高としか言いようがなく、仮に「きんいろモザイク最高」以外のあらゆる言語がこの世から消滅しても生きていける気がしてきた。


以下雑感.  



・歪んだ世界観その2 烏丸先生の着ぐるみ

第3話「あなたがとってもまぶしくて」と第4話「雨にもまけず」において既に明示されていたが、きんいろモザイクにおいては現実であり得そうにもない特定の人物の行動を、その周りの人間が「そういうことが起こり得る」と認識して放置したり受け流したりする光景が度々見られる。ルンバの上に置いた犬の人形を見てアリスが喜んだり、綾がダンボール箱を被って登校したのはとりわけ「現実だと異常だが、この世界の中では許容される」事例だった。

しかし今回は今までとやや事情が違う。異常な行動を起こしたのは教師である烏丸先生だった。生徒の模範であり、ふざけることを暗黙のうちに禁止されている立場の人間が全身ウサギの着ぐるみを着て校門に立つというのは明らかに度を超えている。だがそれでも今まで積み上げてきた世界が崩壊することもなく、倒れたのは着ぐるみを着た烏丸先生だけだった。ルンバの上に犬→髪の毛に水をかける→ダンボールを被って登校→着ぐるみ…という流れを見てみると、どんどんこの『きんいろモザイク』という世界における異常な行動に対しての許容範囲の幅が広がっていることがわかる。



・九条カレンの家庭環境

ここにきて次々と九条カレンの金持ち設定が生かされているわけだが、金持ちなのはカレン自身ではなくカレンの両親なわけで、すなわちカレンの金持ち設定が生きるということは、カレンの家族事情が公にされるということでもある。イギリスにあるカレンの家(というか城)も公開されたし、父親との関係も(父親本人が出てきてはいないが)明らかになってきた。ほしいネックレスがある→買ってもらえる というところまでならまだしも、一度は売り切れだったネックレスが父親の財力により手に入るという状況を考えると、かなりやばいタイプの権力者であることがわかる。だが、そんな裕福で欲しいものはおよそ何でも手に入る家庭環境で育っていて、自由奔放ではありながらも傲慢さや身勝手さを身に付けなかったのは、後述するアリスとの付き合いがあったからだろう。



・九条カレンの語ること

前回「きんいろモザイクは回想が少ない」と言っておきながら今回がっつり回想メインだった。しかし「現在の時間軸に過去回想を定期的にインサートする」のではなく「現在の時間軸を一旦置いておき、過去回想をひとつのエピソードとして成立させる」という手法を採っているため、よくある過去回想の取り入れ方とは違っている。もっとも、完全に独立しているわけではなく、回想が現在と地続きになっているので唐突さはない。そもそも厳密に言えばこれは回想とは少し違っている。カレンはアリスと過ごしたイギリスでの日々を思い浮かべ忍たちにそれを伝えているという状況なので、実際に起こっているのはカレンの独白だ。しかしカレンのナレーションが一切差し挟まれないことにより、カレンの話は回想の一種として視聴者に認識される。



・アリスはカレンの姉、忍は2人のヒーロー

かつてアリスがカレンの姉的存在だったことは1期の時点で明かされている。今回改めてイギリスの話を持ち出したのは「忍がいない状況でのアリスとカレン」を描きたかったからだ。思い起こしてみれば、アリスがイギリスを想起する時は常に忍の存在があった。しかしカレンがイギリスを想起する時、忍の存在はなかった。同様に、忍のイギリスの思い出にカレンは登場しない。なぜならカレンはイギリスで忍と出会っていないからだ。2人を結び付ける存在としてのアリス、という役割を一旦放棄し、幼い頃のアリスとカレンの思い出を描いてみせる。

しかしただ単純な思い出話をしたところで現在の時間軸に接続するには弱い。ここで重要なのは「カレンが日本語を話したことでアリスに発見された」という点だ。忍と出会って日本語を学び始めたアリスはカレンと外で遊ぶことが少なくなった。だからカレンは自分からアリス(の興味)を奪った存在として、日本語あるいは日本のもの(こけしとか)に対して少なくとも良い思いは抱いていなかったはずだ。が、自らの身が危うくなった時、アリスが学んでいた日本語を喋ることで危機を脱することができた。それまではカレンがアリスのことを無闇に引っ張り出すという関係だったのが、カレンのほうからアリスの領域へ歩み寄ることで二人は以前よりも強い関係を築き上げられた。

こうした経緯、また1期のエピソードを思い出せば、アリスはカレンの姉のような存在だったという話も説得力が出てくる。では、今回最後にアリスが言った「シノは私たちのヒーローだよ」とは何だったのか。これは「私」ではなく「私たち」というところが肝だ。イギリスにおいて忍はカレンと出会っていないし、日本に来てからも忍がカレンを格好良く救うなどの出来事はない(今回のホームステイは忍というより大宮家に恩があるというところだろう)。ではなぜ「私たち」なのか。その答えがこの過去回想だ。足を挫いたカレンがアリスに見つけてもらえたのは前述のように日本語を喋ったからで、アリスが学んでいた日本語は忍に教えてもらったものだ。なので忍は間接的にカレンを救っていたことになる。それを理解していたからこそ、カレンもその後イギリスで日本語を勉強し始めた。


・結論
大宮忍は陸奥亮子。