ひだまりスケッチ×ハニカム

もうひだまり荘の住人たちの物語が見られなくなってしまうことにただただ打ちひしがれている。もしかしたら我々が画面越しに彼女たちの物語を見ていないうちに時計の針が進んでしまっているのではないか、物語に置き去りにされてしまうのではないかという恐怖。それは1期〜3期の時とは違い、ヒロさんと沙英の二人が受験期に突入していつものひだまりメンバーでいられる時間がゆっくりと減っていってることが原因である。日常に永遠など存在しないという現実が重くのしかかる。


最終回でも宮ちゃんがかわいい。風呂場で調子に乗って逆立ちする宮ちゃんがかわいい。初詣に行っても結局食べ物につられてしまう宮ちゃんがかわいい。他のひだまり荘の住人たちがどんなに変わっていこうとも宮ちゃんだけは絶対に変わらないだろうという強い確信がある。超吉を引いてしまう宮ちゃんと一緒にいれば人生かなり楽そう。彼女に関しては一貫した態度の清々しさと子供のような無邪気さが最近の創作作品では滅多に見られないということで、絶滅危惧種として大切に保護していきたい所存なんだが今度グッスマからfgが…


最終回は大晦日と元日のエピソード。おみくじに初日の出とオーソドックスなネタを詰め込んできて目新しさは一切感じないものの、ネタではなくあくまでキャラクタの力でストーリーを紡ぎ出す作品なのでどんなネタでも一定以上の輝きを放つ。個人的には前回の夏目ちゃんのエピソードをしっかりフォローしていたのが好感触だった。とにかく時間の流れに対してこれほど敏感かつ感傷的にしてくる作品はそうそうなくて、というのも通常のアニメの倍以上の時間をかけてゆっくりと物語を積み重ねているので、自然と作品の中に入り込んで登場人物たちと近い目線や感覚で物語を咀嚼することができるようになっているというのが大きい。「身近さ」で言えば近年トップクラスの作品だと思う。魔法も怪物も異世界も出てこない、ごく普通の我々が暮らす世界と変わらない世界で彼女たちは我々と同じように生活している。


「等身大」かと言われればそうでもなく、しかし浮世離れしてるかと言われてもそうでもない、この作品に登場するキャラクタたちは実に不思議な距離感を持っている。我々と近すぎず遠すぎず、しかし現実的な時間の流れに身を置いているため「身近な存在」に思えてしまう。まるで錯視のようだ(ひだまりが美術をテーマに扱っているからなのか)。キャラクタ同士の距離感はどちらかというと現実の人間関係よりも密であり、このやりすぎなくらい密になっているこの関係性が独特の柔らかさを生む。口に出すのも恥ずかしいような台詞もこの作品に織り込まれることによって心地良く鼓膜に響いてくる。キャラクタの掛け合いを大切にしている作品だけあって一言一言をしっかり考え、それを発する間にも気を配って遅すぎず早すぎず丁度良いテンポで物語を進めることが出来る。


全編通して何回も言っている通り「時間」が主軸になっているアニメ(4期)だと感じた。「受験」「卒業」という言葉がやがてやってくるであろう別れを否応なく意識させる。例えば転校みたいなイレギュラーな要素とは違う、誰しもが確実に通る道であり経験を余儀なくされるものである。それゆえダイレクトに我々視聴者に突き刺さるセンチメンタリズム。青春とは恋愛ではないのだということを教えてくれるひだまりスケッチ。出会いと別れの繰り返しが人生ならば、その反復が凝縮されているのが青春だと考えられる。だからこそひだまりは青春なのである。親友と過ごす一分一秒は二度と返ってこない時間であり、過ぎ去った時間は思い出という過去に格納されて、振り返る度に感傷が脳を刺す。ゆのの「アルバムを作りたい」という願いはまさしく思い出を風化させないための試みであり、写真は時間を堰き止めるただひとつのファクターとして用いられる。


個人的には1・2年生組が3年生2人にどうアプローチするのか物凄く気になっていたんだけど、なずな以外のメンバーがしっかり沙英とヒロさんとの別れを受け入れてそれでも応援しようとする姿が成長を感じさせた。特にゆのなんかは間違いなく沙英たちを引き止める側にまわると思っていたんだけど、2人のことを一番気遣っていて、表面的には気遣いとかに無縁に見える宮ちゃんとの釣り合いが上手く取れていた感じがする。乃莉は1年生にしてはかなり大人びた考えを持っているんだけど、沙英に見せる弱気な一面なんかもあり上手く掘り下げが成功していた。この4期で一番色んな面を見せてくれたのは実は乃莉なんじゃないかと思っています。


4期になっても持ち前の暖かさ・柔らかさやキャラの魅力を一切失わず、さらに深みや円熟味を増した懐の深い作品で1期から見ていた人も4期から見始めた人も満足のいく内容だったのではないだろうか。時間という制限があるのでサザエさんのように永遠に続けることはかなわないけれど、それでも時間の許すかぎりどこまでもこのひだまり荘の住人たちが紡ぎだす物語を見ていたい。『ひだまりスケッチ』シリーズはもはやただのアニメ作品ではなく、万人に共有されるべきひとつの青春のモデルケースである。