The Best Albums of 2023

現在2024年4月。今更2023年のエントリを上げることに違和感しかないが、労働に精神を引き裂かれたことによりこれほど時間が掛かったという証左でもある。自分の精神が完全に破壊されるまで、備忘録として続けていきたい。

 

 

【海外】


1.The Lemon Twigs『Everything Harmony』

EVERYTHING HARMONY

圧倒的1位。ここ数年聴いた海外の作品の中でもダントツ1位である。完璧な造形美を誇るメロディ、それでいて情熱や品性のような人間味をも感じさせるバンドサウンドとボーカル。我々の日々の営みの中に、常に寄り添ってくれるような作品。この作品を聴くと、くそったれな1日も最良の1日になり得るのだ。

 

 

2.Youth Lagoon『Heaven Is a Junkyard』

Heaven Is A Junkyard

8年待った。地獄の淵から這い上がってきたトレヴァー・パワーズの、祈りのような歌声。ハードなバックボーンを感じさせない、繊細で穏やか、それでいて物語性のある彩り豊かなメロディ。人生は相変わらず好転しないが、そんな人生がどうしようもなく続いていくことを思い知らされると同時に、そんな人生だからこそ些細な喜びを大切に抱き締めねばならないことを教えてくれるのだ。

 

 

3.Wednesday『Rat Saw God』

RAT SAW GOD

ロックンロールというものが形骸化してどれだけ経っても、ロックンロールを内に宿して発信し続ければ、その存在がロックンロール足り得ることを感覚で理解させられる。コロナ禍を経て混沌としたこの時代だからこそ、このようなバンドが天下をとって然るべきなのである。

 

 

4.Sigur Ros『ATTA』

ATTA

アルバムのアートワークで物議を醸したことが記憶に新しいが、アーティストがどのような主義主張思想を抱いていようが、彼/彼女らの生み出す作品が好きであればそれでいい、そんな当たり前のことに気付かされる。

 

 

5.Keep of Kalessin『Katharsis』

Katharsis

デスメタル?ハードコア?細かいジャンルの区分なんて知るか、これが音楽だと言わんばかりの圧倒的アティテュード。そうしたアーティストほど紡ぎ出されるメロディが美しいのもまた、その純粋さを映し出しているかのようだ。

 

 

6.Speedy Ortiz『Rabbit Rabbit』

Rabbit Rabbit (Opaque Hot Pink Yellow & Light Blue Vinyl)

Speedy Ortizといえば『Major Arcana』というイメージのリスナーは多いのではないか。2013年。大学4年生の自分は何をしていたのだろう。論文を書き、就活を繰り返し、雨の日に自転車で転び、小さくて汚いライブハウスに足を運んで小さな世界を唄うロックバンドを見ていた。あの日から10年。あの時の自分は今の自分を見て、どう思うのだろう。

 

 

7.YONLAPA『Lingering Gloaming』

Lingering Gloaming

タイという国について知っていることがどれ程あるだろう。首都はバンコク、微笑みの国、マッサマンカレープーケットに立ち並ぶマーケット…その中に息衝く文化を、この作品を聴くことで少しだけ垣間見ることができる。

 

 

8. feeble little horse 『Girl with Fish』

GIRL WITH FISH

羊蹄山を一望できるキャンプ場で、夜に焚き火をしながらずっと聴いていたアルバム。繊細さと荒々しさが丁度いい塩梅で同居していて、これがインディの良さなんだよな、と再認識しながら2023年をそっと終えていくのだった。

 

 

9.Hotline TNT『Cartwheel』

Cartwheel

話題になってるから聴いたろくらいの感覚だったんだけど、これが思いの外良かった。なんか「これは傑作に違いない!」と思って聴く作品は自分の中でハードルが上がってるから中々思ったような傑作!という感じにならないことが多いのだけど、ラフな気持ちで聴く作品が「あれ?傑作!」となることが多い。気の持ちようは大事。

 

 

10.King Krule『Space Heavy』

Space Heavy [解説書・歌詞対訳付 / ボーナストラック追加収録 / 国内盤CD] (XL1327CDJP)

一見お断りではないけれども、敷居高く感じる店みたいな、そんか雰囲気があって最初はあんま聴く気が起きなかったんだけど、似たような雰囲気のカレー屋に足を踏み入れて聴く気になった。店は狭くて店長はぶっきらぼうな感じなんだけど、一口カレーを食べればその美味さに我を忘れて食べ進め、お会計の時に笑顔を見せる店主のファンになるという…

 

 

11. The Drums『Jonny

Jonny

相変わらず逃避感の強い音楽なんだけど、作品を重ねるごとに少しずつ現実とリンクしてきて、今回はフロントメンバーの名前を冠するアルバムということで改めて現実と向き合ったような、そんなアルバムである。

 

 

12.Veeze『Ganger』

Ganger (Deluxe Edition) [Explicit]

今年のヒップホップ・ミュージックの中でも群を抜いたインパクトとクオリティ。情熱と距離を置いたフロウに、悪趣味が垣間見えるリリック。ビートも異様な雰囲気を醸し出しており、一度聴くと抜け出せないリスナーが多いのも納得の仕上がりだ。

 

 

【国内】

 

1.lamp『一夜のペーソス』

一夜のペーソス

lampはいつも自分の人生の分岐点で最高の音楽を届けてくれる。「ゆめ」は社会人1年目に、「彼女の時計」は転職後1年目に、そしてこの「一夜のペーソス」は転勤後1年目にリリースされた。不安が押し寄せる自分の心を癒し、明日への活力も与えてくれる魔法のような音楽。音楽に救われるということがあるならば、自分は間違いなくlampの音楽に救われてきたのである。2020年度文句無しのトップ。

 

 

2.NOMELON NOLEMON『ルール』

ルール

lampが新作をリリースしなかったら間違いなく1位だった。そのくらいの完成度。前作から1年足らずでこのクオリティのアルバムを上梓してきたことにただ驚くばかりである。「透明水曜日」が白眉だが、YouTubeに上がっている「SAYONARA MAYBE」のライブバージョンも素晴らしい。ライブを見てみたくなるアーティストだ。

 

 

3.きゃない『星を越えて』

星を越えて (通常盤)

「バニラ」「愛の言葉」を筆頭に、全体的にとにかくスピッツからの影響を受け過ぎてる点を差っ引いても良く出来たアルバムだと思う。ボーカルの声質のおかげでシンプルなJPOPがエモーショナルな熱を帯びるのが良い。

 

 

4.緑黄色社会『pink blue』

pink blue (初回生産限定盤A)

どのように曲を組み立てていけばヒットソングが生まれるかということを肌感覚で分かり始めた感がある。特にベーシスト穴見氏の覚醒は目覚ましい。ここに個々人のスキルが上乗せされていくと、バンドとしてのステージがまたひとつ上がっていくだろう。

 

 

5.NICOTINE『St.ROSALIA』

St. ROSALIA

活動30年目。自身の年齢を考えると、それがどれほどの偉業であるか分かるだろう。売れ切ったアーティストの30周年とは訳が違う。泥水をすすり続けてきて、そのクオリティに世間の評価が未だに追いついていないバンドの30年。その重みと凄み、そして良い意味での軽やかさに、圧倒させられるのだ。

 

 

6.凛として時雨『last aurorally』

last aurorally (初回生産限定盤)

凛として時雨。高校生から聴き続けているバンドが現役感のある作品をリリースしてくれることは、我々のようなヤングエイジにとっては有り難みしかない。

 

 

7.とた『oidaki』

oidaki

全く事前情報を知らず、妻が流すSpotifyのラジオから流れてきたアーティスト。今風の曲調に今風のアレンジ。若干の付いていけなさを感じつつ、これが現代なのだと刷り込んでからはすんなりと受け入れられるようになった。

 


8.板歯目『遺伝子レベルのNO!!!』

遺伝子レベルのNO!!!

読めないバンド名を象徴するかのように読めない曲展開が魅力のバンド。個々人のスキルを遺憾なく発揮している「SPANKY ALIEN」でノックアウトされた。こんな活きのいいバンドが定期的に出てくる国であってほしい。

 

 

9.BUCK-TICK『異空-IZORA-』

異空 -IZORA- [通常盤] [SHM-CD]

人はいつか死ぬ。不死のような佇まいであっても。圧倒的カリスマだったフロントマン櫻井氏の突然の逝去に、呆然とするしかなかった。2023年から新天地で労働することになった自身を奮い立たせてくれたこの作品は、今後の人生の中でふと思い出しては懐かしみ、そして寂しく思うのだろう。

 

 

10.藍坊主『月の円盤』

月の円盤 <初回限定盤B> [CD+DVD]

君は藍坊主を知っているか。下北沢界隈で話題になり、『ミズカネ』週間オリコンチャート10位以内にランクインし、「星のすみか」が人気アニメのテーマソングになり…順調な道を歩んでいた彼らが、ドラマー脱退やボーカル不調の危機を経て、辿り着いた原点。回帰とはまた違う、ゲームクリア後2周目のような感覚。学生の頃の自分を奮い立たせてくれた藍坊主はちゃんと、ここにいる。

 

 

11.UVERworld『ENIGMASIS』

ENIGMASIS

出自や立ち振る舞いからか、ロックバンドとして軽視されがちな部分も否めない。斯く言う自身もこのバンドはあまりロックバンドとして考えていないのだが、そうしたジャンルで括ること自体が馬鹿らしい、数多のジャンルを軽々と横断していくアクロバティックな感覚に、20年経った今も惹かれ続けているのだ。

 

 

12.EOW『HOPE』

HOPE

近年のアーティストの中で最も上手く海外のフィーリングをバンドサウンドに落とし込んでいると思う。難しくなく、軽くもなく、絶妙な塩梅のポップミュージック。最早大衆に知れ渡るのは時間の問題だろう。

 

 

 

 


2023年は人生が大きく変わっていることを実感した1年であった。転勤が契機であったことは間違いないが、今までにないようなタイプの人々との関わりや自身の細々とした音楽活動の再開など、とにかく刺激が多かった。そのため身体と精神が疲れ切っている日も多く、自分が今何を考えているか分からないまま仕事に向かう日もあった。

キャンプにも行くようになり、プロレスも観に行くようになった。秘湯めぐりもした。労働がつらいことに変わりはないので、いかに労働以外の部分を充実させるか、という点に心血を注いだ1年でもあったように思う。

どう足掻いても労働はつらく、ただ労働を辞することが出来ない状態にもなったので、身体か精神のいずれかが破壊されない限りは、延々と今の労働を続けていくのだろう。削られた精神は癒えることはあっても元通りの姿にはならず、緩やかに破滅の道を進んでいく。