猫物語 黒

安心安定の物語シリーズ、どうせなら猫物語の黒と白は連続してやってほしかったという思いを抱えつつ、やっぱ面白いものは面白いので些細な不満はシャフト演出のうねりの中に飲み込まれてしまうのだった。


序盤の暦と月火のやり取りで掴みは完璧、その流れで猫物語の主役である翼との会話劇で一気に核心へと引きずり込む力強い構成。前半わずか20分でここまで魅せる展開なのは原作の咀嚼具合が馬鹿みたいに上手いから(褒め言葉)だろう。4年前の化物語のときにそれは嫌というほど思い知らされたわけだが、相変わらず制作スタッフと西尾維新の意識がシンクロしているかの如き夢幻の闇のような演出を矢継ぎ早に繰り出す手数の多さにノックアウトされそうになる。偽物語では若干芸術性を意識しすぎたような文字演出も抑え目になっているのであんまり気にならない。


羽川翼というキャラクタの異常性を仄めかしつつ、障り猫に憑依されたブラック羽川と暦の会話劇と血生臭い描写で今度は一気にファンタジーの世界へ移行する。序盤の明るい風景から一転して影の多い暗い風景になり、底の見えない物語を提示してみせる。しかし月火と火憐の存在が良い意味で重く苦しい内容を中和していて、ダークな世界観に光を当てる役割を果たしている。暦と翼、そして月火と火憐の姉妹の関係が三竦みになっており、翼とブラック羽川を切り離して考えた場合はブラック羽川が三角形の中心座標に位置することになるだろう。


教室での暦とブラック羽川の会話、原作では翼の主人格としての異常さの輪郭を形作っていくようでかなり好きだったんだけど、アニメでもそれが充分に構築できていて、特に暦の「待て」が最初にブラック羽川に襲われるシーンと重ね合わせていて、2度目で襲われなかったことで障り猫の意図を朧気に確認することができるシークエンスは原作では見えずらかった部分なのでアニメ化の恩恵は確実にあると実感した。西尾維新の作風の異常性は単なる異常な演出だけでは映像として再現できないのである。


西尾維新の作品の特徴として「下らない台詞をめちゃくちゃ格好良く聞かせる」というのがあって、この猫物語においても暦が忍野に言い放った「ネコミミ姿の女子高生に欲情している」という台詞もその例に洩れず、普通の日常のワンシーンで言えば完全にアウトなんだけれど、忍野と対峙したあのワンシーンにおいてのみこの台詞がセーフどころかクールなものとして響いてくる。まるで魔法のような鮮やかな手際。そのあとの暦とブラック羽川との(黒編での)最後の闘いも映像でみると中々シュールだったんだけど、両者が交わしてる言葉自体はいたって真面目なので温度差がすごい。


まあ化物語の前日譚ということもあって、そこまで密度の濃いエピソードではなかったんだけど、やっぱアニメーションとしての完成度が普通のそれとは別格なので観てるだけでめちゃくちゃ満足感がある。OP・EDともに良曲だったので(実際には解決していない話なんだけど)観終わったあとの爽快感があったりと原作を読んでいるだけでは得られないものも沢山手に入ったので物語シリーズ全部アニメ化するのは本当に正しい選択ですね。傷物語とかものすごく好きなので早く映画見たい。シャフトはもうテレビシリーズ休憩して映画に本腰入れてくれ。