ガールズ&パンツァー 11話 「激戦です!」

制作が間に合わなくて放送落とすという大失態をやらかしたにも関わらず、多くの人間がそれを容認して放送再開を待ち続けたというバックボーンを取り敢えず完全無視して視聴に臨むことにした。結果的に10話までの熱量を維持しつつ、最強の敵との闘いに相応しい作画や演出の応酬で最後まで視聴者を画面に釘付けにするというまさにガルパンらしいエピソードになっていた。みほを隊長として主軸に置き、各チームの個性を打ち出した上で全員一丸となって黒森峰を倒すという王道を歩んでいる。

対プラウダ高校戦の時にはあんこうチーム以外のメンバーはみほの立てた作戦に従わず、その結果カチューシャの戦術にハマり追い詰められていたが、今回は全員がその事実を反省したからか徹頭徹尾みほの指示に従っている。これまでの4試合(一応アンツィオ含む)を経て確実にみほへの隊長としての信頼が他メンバーの中で高まっていることもあるだろう。とにかく今回は最強の敵との闘いという状況を利用して今まで出しきれなかった「戦略」の要素を強く押し出している。最強の敵に勝つには最強の武器があればいいのだが大洗女子学園にはそんな武器は存在しない。したがって知力でもって相手の武力を制しなければならないという結論に達する。大洗の知力の核となるのは言うまでもなく西住みほである。みほが隊長なのは黒森峰の隊長でありみほの姉であるまほとの闘いのため、ということも(脚本的に)理由のひとつだろうが、肝心なのは「最も知力が優れているのが主人公でなければならなかった」というところが大きいだろう。物語を引っ張るのが主人公なのだから、大洗女子のチームを引っ張っていくのが主人公のみほなのは極めて自然である。

数と戦車の力に関しては大洗を圧倒している黒森峰だがその力の差が存在するために戦術はあまり練られていない、という隙をみほの作戦が上手く突いた形になっている。撹乱を基本とするみほの作戦は黒森峰のマニュアルでカバーすることが出来ず、また小回りのきく機体も少数だったために素早い大洗女子の動きに付いていけず、そこで生じた混乱に乗じて一機ずつ撃破していくという手堅い戦法スタイルは西住流という流派のイメージからはだいぶかけ離れている。それもそのはずで、西住みほは西住家の人間であっても「西住流」を継承した人間ではないからだ。大洗女子の他のメンバーがしきりに「西住流」と言っているが、ここでいう「西住流」は由緒正しい西住流を指しているのではない。母親と姉から否定されても決して曲げることのなかった、西住みほだけの西住流である。だから「西住流」というのはやや語弊があるというか分かりづらい言い回しで、正確には「西住みほ流」なのだ。

この「西住みほ流」が最大限に発揮されたのが、「川でエンストした1年生チームを置いて先に行くか、助けて皆で川を渡るか」という選択を迫られる場面だ。普通の西住流ならば迷わず1年生チームを置いて先に行っていただろう。実際家族として西住流に触れていたみほはその選択も頭の中に思い浮かべていた。しかし「西住流」ではなく「西住みほ流」を良く知っている沙織、華、優花里、麻子の4人によってみほは自分が「西住流」ではないことを思い起こして本当に自分がやりたいこと、つまり1年生チームを助けて皆で川を渡るという「西住みほ流」の選択を採った。これは過去、みほが試合に負けた時にも選んだ道であるが、あの時と違うのは他の仲間たちが「西住みほ流」のことをしっかりとわかっているという点だ。それを信念としているみほが隊長だからこそ誰一人として「1年生チームを置いて行こう」とは進言しなかった。これが1回戦や準決勝だったらそういった声が上がっていたかもしれないが、現段階では全員がみほの選択を信じ、みほの指示に従っている。「みほさんの戦車道が間違っていないことを証明するためにも、絶対に勝ちたいです」という華の言葉がこの時の全員の考えを代弁している。「ここまで来れただけでも充分だ」という考えにはならず、皆で力を合わせて皆で勝つというところまでが「西住みほ流」だと誰もがわかっているからだ。誰かを切り捨てるという選択を今まで一度たりとも採らなかったからこそ大洗女子は決勝まで勝ち上がってこれた。あと余談だが、1年生チームが「助けて下さい」と言うのではなく「私達は大丈夫です、隊長たちは早く行ってください」と言えるようになったことが、戦車の中から逃げ出していた初期からの成長を感じさせる。

話の内容としては大洗女子が黒森峰を翻弄しつつも最後に現れたマウス(史上最大の超重戦車)がそのパワーで大洗を圧倒する、という逆転に次ぐ逆転の展開で最後まで飽きさせることなくテンポ良く進んでいく。大洗女子にいいように翻弄されている黒森峰って実はそんなに強くないのでは、と思わせておいて最後にマウスというラスボスを投下するというバトル漫画でもよく見られるような筋運びだが、大洗女子がずっと知力でもって戦っているのに対し、黒森峰は最後まで武力に頼って戦っているというところに若干の違和感がある。今までの話の中でまほは知将であるかのような描写があったにも関わらず、まだまほは目立った活躍をしていない。黒森峰のメンバーに冷静に指示をしてはいるが、みほの戦略に対して戦略でもって潰しにいくということはしない。これが何を意味するかは最終回を見ないとわからないんだろう。

作画・演出に関してはこれだけ延期したんだからそらそうなるだろ、というくらいには研ぎ澄まされている。戦車の細やかな走行やみほが戦車の上をジャンプするシーンなど、とにかく「動作」に徹底的にこだわって作られている印象を受けた。演出も、みほの作戦を視覚的にわかりやすくするための最大限の努力が為されている。ブラスバンドで演奏されるような楽曲をBGMとしていることもあって、派手だったり大掛かりな演出が多い。撃ち合いなんかの直接的な戦闘シーンにおける演出も素晴らしいが、やはり今回でひとつ取り上げるとしたらみほが1年生チームを助けることを選択したあのシーンを選びたい。それまでは息もつかせぬ試合展開で銃撃音や壮大なBGMが鳴り響いていたのに対し、このシーンでは音数が最小限に絞られ、キャラクタたちの声やその奥にある思いがダイレクトに視聴者側に伝わるように計算されている。

マウスというラスボス級の戦車、そして未だに手の内を見せないまほという二つの存在にどう立ち向かうのかが最終回の見所だろう。優勝して大洗女子学園は廃校を免れることができるのか、みほはまほや母親と和解出来るのか、そしてこのトーナメントが終わった先に何があるのか、といった必須処理事項もけっこう残ってるので最終回の情報密度はかなり濃いだろう。約3ヶ月近くかけて制作されたのだからやはりこちらの期待を上回るものを見せて欲しいところだ。