普通の女子校生が【ろこどる】やってみた。

今期最も終わってしまうことが悲しいアニメだった。社会の奴隷として働く日々の中で間違いなく大きな救いとなったし、架空の存在である流川市(最悪モデルとなった千葉の流山市でもいい)に移住したくなるくらいにはこの作品に嵌った。世に言う(死語に近い)美少女アニメというのはただ可愛い子がうじゃうじゃいるだけでは全く成立しなくて、実際はキャラクタの魅力はあくまでも前提条件であり、本質的にはそのキャラクタを支える、あるいはそのキャラクタが導き出すシナリオが強靭でなければならない。しっかりとした土台があって、起承転結が整っていて、かつ今までにない新鮮さや驚きを与えてくれるシナリオというのはいつの時代にも求められる。それはファンタジー、ホラー、コメディといったジャンルを問わず渇望される存在であり、そうした需要に見事に応えきったのがこの『ろこどる』という作品であることは言うまでもないだろう。


この『ろこどる』が最も優れているのは、近年2次元でも3次元でも異様な盛り上がりをみせ既に手垢がついている「アイドル」というジャンルに今までと全く違う角度から切り込んでいった点だ。「ろこどる=地域密着型(ご当地)アイドル」という、全国区のテレビ番組などではなくローカル番組や地域のイベントなどをメインに活動しているアイドルにスポットを当てたことで、アイドルという存在への親近感を明確にしたうえで、一般人と同じ場所からスタートして今なお一般人の感覚を持って活動している宇佐美奈々子と同じ目線で視聴者はアニメ全体を見渡すことができる。尚且つ普通の女子高生だった奈々子がアイドルとしての自覚を持って活動を本格化させていく過程は往年の少年漫画が提示したストーリーに似ている。友情・努力・勝利という基本要素がしっかりと抑えられたうえで、宇佐美奈々子という普通の女子高生でありながら普通以上の魅力を備えたキャラクタが次第に大勢の人の目に触れて輝いていく。清々しいほど捻りのない脚本が逆説的に奈々子の純粋さを際立たせることになった。ここらへんのバランス感覚は本当に素晴らしいの一言に尽きる。


もちろん宇佐美奈々子に限らず、同じろこどるであり先輩の小日向縁や魚心くんの中の人こと三ヶ月ゆい、後半から加入した名都借みらいなど、奈々子の周りも素晴らしいキャラクタで固められており、ろこどる結成のキーパーソンでありながらギャラなどの問題であまり良い目で見られなかった課長も徐々にキャラが立っていき、最終的に流川市に関わる全ての人間が一体になってひとつの物語を作り上げていくことになった。間違いなくキャラ主導型作品のはずなのに、奈々子たちが紡ぎ出す物語が現実に踏み込みそうで踏み込まないギリギリのラインを攻める塩梅だったために、シナリオはフィクションとしての強固なパワーを手に入れられた。際どいところを突いた奈々子と縁の関係性や、奈々子とゆいの微妙な上下関係も世界観の維持に寄与していた。最小限の登場人物で最大限の効果を発揮させる脚本の好例だろう。


タイトル通り、宇佐美奈々子という至って普通の女子高生がもつ純粋な可愛さを前面に押し出しながら、ろこどるとしての活動を軸にしてその活動内容に対する不安、人前で歌ったり話したりすることについての葛藤など、乗り越えるべき壁を用意したうえで、それを縁たち仲間と力を合わせて越えていく。真新しさは「地域密着型アイドル」という設定で与えられたので本筋そのものは王道でもいい。視聴者のツボを押さえつつキャラクタの魅力とシナリオの面白さを両立させた、極めて真っ当な傑作。何より素晴らしいのは1話から最終話まで全てが面白かったことだ。夏アニメ雑感において「ろこどるが暫定1位」と述べたが、その評価は最後まで変わらなかった。常にトップを走り続けたそのポテンシャルの高さをもってすれば続編も制作可能だろう。