蟲師 続章 第一話 「野末の宴」

相変わらず他のアニメとは一線を画する時間の流れが横たわっており、そこに身を任せるだけで一時の間だけ浮世の有象無象を忘れられる。それでいてアニメーションとしての矜恃もしっかりと貫かれており、地に足ついたシナリオと繊細な作画が蟲師という作品を単純な芸術作品には留めない。派手な演出もほとんど用いられない。シナリオに沿った流麗な演出が蟲師という作品の異質な世界観へと誘ってくれる。蟲師は蟲というものを扱っていながら、あまりファンタジー性を感じさせない。どちらかというと民俗的な、古くから残り続けている言い伝えを老人から聞かされているような感覚。

ほんの少しの不気味さを醸し出しながら、基本的には蟲という存在とそれに纏わる話が中核にある。蟲に関わる人間の様々な物語は多種多様だが、ギンコという蟲師が大なり小なり干渉することで一貫性が生まれる。蟲というものについては夏目友人帳における妖怪たちに似ている。全てが人に害を与えるわけではなく、共存という道も残されている。夏目友人帳と違うのは、主役が話によって変わることと、蟲師であるギンコは我々の視点とは重なり合わないということだ。『蟲師』における第三者的視点はその都度登場するキャラクタに委ねられる。

今回は『蟲師 続章』なので蟲師1期の続きという位置付けだが、基本的な設定さえ頭に入っていれば1期を見ていなくても問題なく視聴できる。1話完結型なので回同士の繋がりというものもほとんどない。起伏に飛んだドラマティックなストーリーも存在しないので、合わない人は合わないかもしれないが、むしろ濃い味付けの作品の鑑賞に慣れてしまった人間にこそこの蟲師という作品は相応しい。必要最低限の味付け以外は何もせず、ただそこにある人や物をそのまま映し出した、近年珍しいくらいの純粋さが脳に染み渡る。