ご注文はうさぎですか? 第1羽 「ひと目で、尋常でないもふもふだと見抜いたよ」

さあ皆さんお待たせしました。究極の安らぎの時間です。

のんのんびよりが終わってから訪れた日常アニメの飢餓という絶望をこの作品はいとも簡単に打破してくれた。安息の地はこんなにもすぐ近くにあったのだ。開始1分の時点で押し寄せる圧倒的な癒しの風情。飲み込むのではなく包み込むようなその暖かさは紛れもなく我々が求めていた世界であるし、ここに身を任せるだけで幸福の何たるかを体で領得できる。物語とは本来意図的に作るのではなく人や物が存在するだけで自然に作られるもので、この作品はそれを完全なまでに体現している。ファンタジー的なウサギの存在以外はいたって正常な世界観なのに、街の景色が西洋のそれに非常に近いためどこか異世界のような雰囲気を漂わせる。この感覚は異国迷路のクロワーゼに似ている。

基本的な登場人物は5人、1話目ではそのうちの3人(心愛、智乃、理世)がメイン。この3人だけでも話が充分に回っているが、学校生活やラビットハウス以外の外の場所など、追加できる要素は多いので今後3人から5人に増えたりラビットハウス以外の場所が舞台になっても、それを蛇足と感じることはないだろう。至ってシンプルでほぼ捻りのないシナリオがキャラクタの言動と行動で鮮やかに色付いていく様子は日常系作品における最大の見所だ。最小限のキャラクタで最大限のバリエーションに富んだシナリオを生み出す原作者の手腕は高く評価されるべきだろう。

こういった日常系作品において男性を登場させることはタブー視されていたが、のんのんびよりが「全く喋らない男性キャラを登場させる」という革命を起こしたことにより男性キャラもその登場のさせ方や個性によっては許容されるようになってきた。そしてこの作品には智乃の父親が登場する。まず父親という存在は主役5人の関係に立ち入ることのない一歩引いた場所にいるうえ、そこに速水奨の声を当てることで「男」という性より「親」という血縁を印象付ける。これにより女子高生が中心になって構成された世界に男性が存在しても許容される雰囲気が形成される。加えて「うさぎ」という男の声で喋るマスコットキャラを登場させることでコミカルな空気も同時に醸成する。

作画含めあらゆる要素に安定感があって、この先何があっても決して崩れることがないという絶対的な安心感をも与えてくれる。キャラクタの設定や会話や行動に真新しいものはないが、実験的要素が無いからこそいつどんな状態においても高品質を保てるというメリットがある。大きなイベントが無くても日常というものは続いていくし、何もないからといってそれが無駄な時間だというわけでもない。『ご注文はうさぎですか?』に流れている時間はほとんどこちら側にその存在を感知させない。緩やかに1日の始まりから終わりを描いていく、ただそれだけで物語として成立していることは筆舌に尽くし難くただ素晴らしいと言う他ない。何もしない日だって日常として成立するということだ。早く仕事を終えて楽になりたい。