ハロー!!きんいろモザイク 第10話 「海べのやくそく」

冒頭からきんいろモザイクに全く関係のない私事で申し訳ないが、先日祖母が今の自宅の近くの病院に入院したので(幸い命に関わるものではない)「起床即出勤→退勤→病院直行→帰宅」という生活サイクルに変わり、家に帰る頃には夜の10時を過ぎているのできんいろモザイクはもちろん、テレビ番組見たりとか本読んだりとかそういうのが全部疲労により出来なくなってしまった。家に帰って即眠る、という生活が一週間続くと(おれは何のために生きているんだろう???)という気持ちになってしまうので、少し余裕ができたこの休日にきんいろモザイク第10話を視聴する運びとなった。


以下雑感.


◼︎旅のはじまり

今回はがっつりとしたイベント回という点で、学校が一度も出てこないなど今までとは全く違う雰囲気が味わえるものの、基本的なスタンスはこれまでと変わらない。変わらないが、小旅行というだけあって全員のテンションが普段より高い。普通なら突っ込み役の綾がキャッチするはずのボケもことごとくスルーされていく。そもそも肌の露出を嫌う綾が普通に水着で遊び回っている時点で今回の熱量の高さが窺い知れる。


駅構内でイベントモードにスイッチを切り替え、電車内で徐々にアクセルを踏んでいく、という感じでの出発だったが、陽子の「別腹」発言に被せるようにカレンが「脇腹」と言ったことに対して綾が完全にスルーを決め込んだあたり、海に到着してからの「アロハ」連呼に繋がる寛容さの伏線として機能している。



◼︎海

海は人から理性と羞恥心を奪う。それを裏付けるように忍の「アロハ」連呼から幕を開けるわけだが、恥ずかしさの塊である綾よりも露出が少ない衣装を着ている忍の存在が目立つ。基本的に海といえば水着回みたいな刷り込みが為されているこの現代社会に真っ向から反対するかのような大宮忍のパンク魂はしかし、海という大自然には勝てなかった。ここでの「海(大自然)」はすなわち大多数の視聴者の意思だ。高説垂れる忍に対し「どうでもいいから水着になれ!!!」という視聴者の強い意志が勝ってしまったのだ。我々はこの事実を重く受け止めなければならない。



◼︎海と世界

カレンが丁寧に "You win! " "You Lose! "と言ってくれているのでわかりやすいが、大自然(視聴者)の意思に負けてしまった忍はアリスに(物理的に)勝利する。それ自体は取り立てるほどのことでもないが、忍に負けたアリスは後に「アリスのいるイギリスに筏で行く」と発言したアリスに対して「忍は海に嫌われているから飛行機にしよう」と答えている。大宮忍といえば一部の視聴者の間で「鬼畜こけし」と呼ばれるほどの天然サディストぶりを発揮する人間だが、もちろんきんいろモザイクの世界においてそんなことは知られてはいないし関係もないことだ。だが、あえてここでは現実ときんいろモザイクの世界を重ね合わせてきた。なぜか。


海はあらゆる大陸と繋がっている。それはあらゆる世界と繋がっていることと同義だ。だからきんいろモザイクの世界の海は、こちらの海と繋がっていたとしてもおかしくはない。海は世界との接点だ。だから今回はこちら側の世界と繋がるような場面が多い。この放送が終わった後に、カレンが着ていた「I Love 炎天下」と書かれたTシャツが実際に作られ販売された、というのも示唆的だった。そして駄目押しが、行きの電車内に置かれた冷凍みかんとゆで卵が、帰りの電車内では全て貝殻に変わっていた、という点だ。


みかんもゆで卵も中身が存在する。皮(殻)を剥いて食べるものだ。ところが貝殻には中身がない。生物としてはもう完全に死んでいる。おれたち視聴者がきんいろモザイクの世界と初めて接点を持ち、なんとか手が届きそうなところまで辿り着きそうになったところで、また現実に引き戻される。おそらく最初で最後であろうこの機会を逃したおれたちは、このままこちら側の世界で死んでいくしかない。冷凍みかんとゆで卵には、忍たち5人の顔が落書きしてあったが、あの貝殻には何も描かれていない。つまりあれは忍たちではない。あの貝殻はおれたちを表していたのだ。



◼︎結論のようなやつ

おれはもし自分の好きなタイミングで心臓を止められるとしたらこの第10話を見終わった途端に生き絶えたかった。日常を意識していながら我々の生きる日常とは明らかに違う世界を構築していたきんいろモザイクが、ついに日常の世界から離れていってしまった。その事に対する一抹の寂しさを感じつつも、いずれ来る別れへの予防接種と思えばつらさも軽減される。さよならだけが人生だ。