Another

賭け云々の話をする前に、このアニメは今期1番面白かったと断言しておきます。いやしかし血Cで見限った水島監督のグロ方面での能力が純粋なホラーものと混ざり合うとこんな力を発揮できるとは思わなかった。


起承転結がしっかりと形成されていて、導入部で三崎鳴は実在するのか否か、災厄とは何か、といった主要部分を処理しておいて、中盤で災厄のメカニズムや主人公と鳴の接近、後半で大量殺戮と真相解明。ホラーとしては中盤部で大量殺戮という手もあるだろうけど、これは「死者は誰か」を突き止めるミステリー要素もあるので、やるなら後半に纏めてやったほうがいいという考えも有りだった。


後半の小椋ちゃんのブリッジとか王子丸焦げはギャグだろうという声もあったんだけど、逆に全部本気出して死亡シーン描いたら視聴に耐えないレベルになると思うんですよ(委員長や先生の死にざまを思い出して欲しい、あんなのが25分延々と繰り広げられるなんて地獄だろう)。あまりに殺伐としすぎることを避けるためにああいう死なせ方を選択したんだと思う。実際小椋ちゃんが先生みたいな死に方してたらおれは発狂していただろう…あ、あと放送倫理とかそういった問題も孕んでいるし。


そして最後に明かされた死者。結論から言うとおれの推理は8割当たってたってことでいいですよね?……いやいいでしょ、だって怜子さん=三神先生はさすがに無理でしょ、だってまず声優からして違うクレジットだったんだし(三神先生の中の人は結局架空の人物だったんだけど、普通に事務所のプロフィール欄に顔写真付きで載ってたし、1月に見た時はああ新人さんかーと思ってた)、アニメ絵でいえば髪の色とか目つきとか骨格とか違うし、これでわかるほうが凄いですよ。
しかしその他の1年半前に三神先生は亡くなってたとか席が足りなかったのは職員室とか、そういった推理は当たってたのでもういいだろう。


で、「完全正解とはいかずともこんだけ当たってるんだからいいだろ」ということで決着が付き、円盤強制購入を阻止することに成功しました。危なかった。まあ全部あたってたわけではないので1週間昼食奢る話も立ち消えになり結果誰も得も損もしないことに。なんにせよ良かった。


そういやおれはこの写真について勘違いしてたんだけど、これは三神先生と怜子さんではなくて、理津子さん(恒一の母さん)と怜子さんのツーショット写真だった。何で勘違いしてたかというと、設定上理津子さんと怜子さんの年齢差は11歳ということになってて、この写真の二人はどう見ても同年代だろ…と思ったからなんだけど、これに気づいてさえいれば「あれ、理津子さんって三神先生に似てるな…という取っ掛かりから、もしかして怜子さん=三神先生では」という結論に辿りつけたのかもしれない。
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閑話休題。
おれは本放送が終わった後すぐに漫画と原作を買って、漫画の方を先に読んでみた。
で、不覚にも泣きそうになった。正直アニメと漫画どっちの内容がいいかと尋ねられると宜もなく「漫画」と答えるだろう。凄く良かった、構成とかコマ割りとか死者が怜子さんだと明かされる時の見開きの使い方とか。アフターケアというか、災厄が終わった後の3組の生徒たちの話も少し出ているのも良かったし、何より感動したのは怜子さんという1人の人物像が最初から最後まで明確に描かれていること。アニメでは序盤と水着回の時にちょっと描かれただけで物足りない感じがしたんだけど(だから最後に恒一が怜子さんのことを「お母さん」と呼んだ意味が分からなかったし、実の叔母をあんなあっさりと殺せるのがちょっとおかしいと思った)、漫画の方は事あるごとに恒一と怜子さんの対話を入れていたので怜子さんの印象が強くて、最後に怜子さんがどれだけ恒一のことを思っていたかということがおばあちゃんを通して語られたシーンの後からはもう鳥肌というか、漫画ではあまり味わえない類の感動が押し寄せてきた。わずか4巻でこの出来は凄すぎる。


もしこの漫画の内容にそってアニメが作られていたならおれは何の躊躇もなく円盤全部購入した。これはもう断言してもいい。アニメは災厄が終わってからの描写が少なかった。アガサ・クリスティでいうところの「ゼロ時間」を意識しすぎてその前後の描写不足が物語を少し薄くしてた感じ。もちろん視聴者の多くが見たいのは災厄が起きている地点であるのは明らかんだけど、そこだけ切り出しても物語性を帯びない。そこに至るまでの出来事(これはAnother0巻で補完されるっぽい)やそれが終わってからどうなっていったか(漫画はここの補完が素晴らしい)をきっちり描いて初めて一つの繋がりをもつ「物語」になる。


しかしアニメはアニメらしく、アニメでしかできない演出を存分に発揮していて、それだけでもアニメ化した意義があると思う。音楽がつくとやっぱりホラーとしての恐怖度合いが増すし、毎回の引きが異常に上手かった。あえてグロさを押し出すことによって災厄の理不尽さを強調できていたし、高森奈津美の声は三崎鳴というキャラクタにはまっていたと思う。あのあんまりスレてない感じがいい。小慣れた役者には出来なかっただろう。


結果として「Another」は、アニメでは音楽や声や映像表現といった演出、漫画ではコマ割りや感情描写といった漫画独特の表現、そして小説では叙述トリックという文字媒体だからこそできるトリック、各媒体がもつ特長を最大限に活かして作られていて、この混沌とした業界において非常に恵まれた作品なんじゃないかなと思う。同じ作品でありながらどの媒体でも違った面白さを発見できる。


円盤を購入させるまでには到達しなかったけど、アニメも全体的に良くできており、一度も崩れなかった作画やマッチングしすぎて怖いくらいの音楽、演出やキャラの描き方などは今期で頭ひとつふたつ抜き出た作品であり今年の作品の中でも(気が早いけど)上位クラスに位置すると思う。傑作でした。